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世界一幸せなサッカー少年たち


 今回は、近年、私が研究調査に取り組んでいるデンマークの少年サッカー環境について皆さんにご紹介したいと思います。デンマークは、人口約550万人、国土は九州ほどの比較的規模の小さい北欧の国家です。デンマークサッカー協会では、2000年代半ばまで、他のサッカー強豪国同様、低年齢からの選手選考やエリート輩出を目的とした指導によって、男子代表チームの強化に取り組んでいました。しかしながら、この取り組みは、優秀な才能を持った選手には、幼少期からのハードトレーニングを要因とする燃え尽き症候群をもたらし、一般的なサッカー少年たちには、不必要な劣等感や強い疎外感を抱かせることになりました。その結果、成人になる前にサッカーをやめてしまう選手を大量発生させることになってしまいます。当然、多くの優秀な選手を失ってしまった男子代表チームが強化されることはなく、協会組織の縮小及び経営環境の悪化など数多くの問題を生じさせることとなってしまいました。このような現状を危惧したデンマークサッカー協会は、2000年代後半から6歳~19歳までの選手たちの活動環境に関する大きな改革に着手しました。幼少期からの専門性の強い競技活動をできる限り排除するために12歳までは能力別に選手を選別することを禁止し、全ての子どもに平等な練習・試合への参加機会を与えました。また、指導者には社会的側面(選手間の人間関係の構築や交流活動)も重視するように啓蒙しました。13歳~19歳では、エリート(Elite:全体の2%程度の主としてプロサッカークラブの下部組織に所属する選手)とグラスルーツ(Grassroots :全体の約98%のエリート以外の選手)に分類されますが、グラスルーツの選手においては、13歳以降も原則的に活動方針は変わらず、社会的側面が重要視されている環境下でチームメイトと平等に練習・試合に参加できるように配慮されています。加えて、「1回75~120分の全体練習を13歳で週に2回、14歳~15歳では週に3回、試合は土曜日のみ実施」というガイドラインがサッカー協会から提示され、家族や友人と共にすごしたり、学業に費やすべき時間をサッカーに奪われることがないように配慮されています。「平等・公平」を重んじるデンマーク人のメンタリティにうまく適合したこの取り組みにより6歳~12歳の全男子人口におけるサッカー選手数の割合は、2009年度44%から2011年度56%に増加しました(参考:ある日本の政令指定都市S市では、2013年10月で約19%)。また、13歳~19歳では、2009年22%から2011年27%に増加しました(参考:同S市は2013年10月で約13%)。このようにサッカー少年の増加は、男子代表チームの競技成績にも好影響を及ぼし、2000年代前半に32位だった国際サッカー連盟のランキングは2017年度には19位にまで上昇し、2019年6月には10位になっています(ちなみに日本は28位)。
 私は、2013年にデンマーク・コペンハーゲンを初めて訪問してから定期的に現地に赴いています。現地では、レベルに関係なく、いきいきとサッカーを楽しんでいるたくさんの少年たちに会ってきました。デンマークと日本のS市の10歳~12歳のサッカー少年を対象としたアンケート調査を実施した結果、多くのデンマークのサッカー少年たちが、自信を持ってプレーし(Q:サッカーのプレーには自信がある→Yesの回答率: 100%)、努力すれば自らが上達すると考え(Q:努力すればできなかったプレーもできるようになるYesの回答率:92.9%)、サッカーの活動は充実していると感じている(Q:サッカーの活動は充実している→Yesの回答率:94.3%)ことが推察されました(S市の結果は残念ですが事情により公表できません)。
 デンマークは、手厚い社会福祉制度やワークライフバランスの充実から「世界一幸福な国」とも呼ばれています。「世界一幸福な国」デンマークのサッカー少年たちを「世界一幸せなサッカー少年たち」と考えてしまうのは私だけでしょうか?