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「『運』に対する考え方とその影響」


 私が特に関心を持っているのは、不確実なできごとを人間がどのように解釈するのかについてです*1。もともと、学部生、大学院生(修士課程)の頃は、スポーツやギャンブルにおける「流れ」についての研究をしていました。大学院の博士課程以降は随伴性判断(2つのできごとの間に因果関係があるかどうかを判断すること)の研究に向かいましたが、実のところ、現実にはありもしないことをあると思い込んでしまう傾向に関心を持っている点ではあまり変わっていません。
 今回のリレーエッセイでは、私が特に関心を持っている領域の中から、あまり知られていないと思われる内容に触れてみたいと思います。「運」に関する研究です。
 このエッセイを読んでいる皆さんは、以下に箇条書きで示した考え方をどう思うでしょうか。どの程度ぴったりと感じるかは人それぞれかと思いますが、ひとまず「そう思う」と「そう思わない」のどちらに近いかを考えてみてください。

 ・運は使うと減ってしまうもののような気がする
 ・良いことは、2度続かないような気がする
 ・人生全体を通して、運のトータル量は決まっているような気がする
 (箇条書きの項目は、村上(2009)より)

 これらの考え方について「そう思う」という人は、「運資源ビリーフ」と呼ばれる考え方の持ち主かもしれません。「運資源ビリーフ」とは「『運が使ってしまうと減ってしまう資源のようなもの』としてとらえる考え方」とされています(村上、2009)。たとえば、たいして興味のなかったくじ引きで当たりを引いたとき、「こんなところで運は使いたくなかった」などと考えたことがあるとしたら、運を資源のようにとらえているといえるでしょう。
 ただし現実では、2つのできごとが互いに影響を与えないことも多くあります。この場合、先に起きたできごとが幸運だったからといって、その次のできごとが不運になりやすくはなりません。すなわち、「運資源ビリーフ」として信じられているようなことが現実に起こることはないのですが、私たちはついその傾向があるように感じてしまうのです。またその結果として、幸運を経験した直後の行動は、必要以上に慎重になることも考えられます。
 私たちの思考や行動は、様々なものから影響を受けています。今回紹介した幸運なできごとも、影響を与える要因のひとつといえるでしょう。今後もし幸運なできごとの後で重大な選択を迫られることがあったら、この話題を思い出して、その慎重さが本当に必要か、あるいはこの話題を意識しすぎて軽率になっていないか考えてみてください。

 〔引用文献〕
 村上幸史 (2009). 「幸運」な事象は連続して起こるのか?:「運資源ビリーフ」の観点から 社会心理学研究, 25, 30-41.

 〔注〕
 *1 このことについては、応用心理学研究センター通信(https://www.ssu.ac.jp/applied-psychology/38/)に書きました。ぜひそちらもご覧いただければと思います。