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「大池(おおいけ)のはなし」


 JR東海道本線磐田駅南口から南下すると、右側に住宅地、左側に田園の景色が広がる。その先に静岡産業大学磐田キャンパスの校舎が見える。そこに向かう途中にあるのが大池だ。
 大池は淡水でありながら潮の干満により水位が上下する内陸性干潟の珍しい池で、多様な生物の生息地になっている。渡り鳥の中継地として、シギ、チドリ、カモなどが羽を休める野鳥の楽園でもある。国の特別天然記念物であるコウノトリも飛来したとか。
 この地域は戦国時代から徳川家康が鷹狩りに訪れたといわれており、磐田駅南の中泉御殿(跡地)はその休憩所とされている。江戸時代の大池は今の数倍も大きく、下流の村々の水田を潤す灌漑用水として利用されていた。明治に入ると池を耕地に変えるという開拓計画が持ち上がり、農民にとっては大きな脅威となった。この池の水利権を争い上流域の住民と下流域の住民との間で度重なる紛争が起きている。
 この時、静岡藩の役人であった松岡萬は開拓をめぐる争いで農民らの訴えを聞き、大池を検分して計画の中止を裁定した。この地域の人々はその尽力を尊び、松岡を神として祀る池主神社(松岡霊社)を建立した。この神社は大学から南東方向に1㎞のところにある。境内には松岡のレリーフがあり、当時の決断がいかに大きなものだったかを窺い知ることができる。多くの恵みを、ときに災いをもたらす自然との共存や困っている人々に心を寄せる共生への道を見つけ出していく大切さを、混沌とした今を生きる私たちに示唆しているのではないだろうか。
 現在の大池は、湛水被害を防ぐための調整池の役割を果たしながらその姿を残している。磐田市はこの地域を「憩いの場・環境学習の場」として、池の周りにウォーキングコース(途中に市のイメージキャラクターである“しっぺい”のベンチがある)や野鳥観察施設を整備した。池の南側には専用駐車場もできゆっくりと散策できるようになった。
 かつては消滅の危機にあった大池だが、ここに集う人々の憩いの場やふれあいの場を新たに創り出してくれるのだろう。普段は大学の研究棟から大池と富士山を眺めるのが日課であるが、晴れやかな日にはぐる~りと、先人の暮らしに思いを馳せ一周(1.3㎞)してみようと思う。


参考資料
・磐田市「磐田市都市計画マスタープラン」.2018.
・磐田市・磐田市観光協会「磐田市観光ガイドブックトラベルトランク」.2019.
・磐田市教育委員会「いわたふるさと散歩中泉編」.2011.
・磐田市教育委員会「いわたふるさと散歩南部編」.2013.
・静岡県「ふじのくに生物多様性地域戦略(2018‐2027)」.2018.
・磐田市立図書館「磐田の著名人松岡萬」.
 HP:https://www.lib-iwata-shizuoka.jp/person/1594/.
・毎日新聞「コウノトリ 磐田・大池に2羽飛来」.2016.12.7.