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「ボランティアってなんだっけ?」


スポーツ科学部 講師 清宮 孝文

 「ボランティアってなんだっけ?」1)
 このセリフは、猪瀬浩平氏が執筆した本のタイトルである。
 私は2015年から2017年にかけて、前任校でボランティア活動の企画・運営に携わっていた。活動の中心は、小学生のスポーツ大会を開催することであり、私が担当するゼミナールの大学生と一緒に大会をゼロから作り上げた。大会へのスポンサー募集やトーナメント表、ポスター作り、会場設営など、一つの大会を作り上げる困難さを大学生と一緒に経験し、大会後には毎年のように達成感を味わっていた。
 しかし、そんなゼミ生とは裏腹に依頼をかけた部活動の大学生からは、「早く帰りたい」や「自分たちの練習がしたい」などの声が聞こえてきた。その声に対し、部活動のキャプテンが注意を行っていたが、私はその注意に違和感を覚えた。なぜなら、ボランティア活動は自主的な活動とされているからである。その後、ボランティア活動を行っている大学生の集団に聞き取りを行うと、大学生の中では強制的や義務的なボランティア活動が常態化されていることが分かった。ある集団では運動部活動で、ある集団ではゼミナール活動で自主的ではないボランティア活動が行われていた。
 では、大学生はなぜボランティア活動に参加するのか。この問題意識で研究を行ったところ、「活動内容に興味があったから参加した」という回答も得られたが、「所属する部活動で強制的に参加させられた」や「義務感に駆られ参加した」と回答する学生が混在していた。
 また、2020年東京大会のボランティアを巡っても様々な意見が表出している。本間氏は「ブラックボランティア」2)の中で営利的である大会で「無償労働」という意味だけ変わらなかったのは主催者側にとって都合が良いことであると批判し、大学生を無償ボランティアの標的にしていると述べている。さらに、二宮氏は大学生から「ボランティアの授業を受講するのは単位目当て、オリンピック・パラリンピックでの経験を、就職活動に活用したい」3)という声が出ていることを報告している。他方、リクルートワークス研究所は「東京2020大会によってボランティアは、『自発的に取り組む』という本来の意味に立ち返りつつ、ライフキャリアを豊かにする開かれた機会へと位置づけを変えていくだろう」4)と示している。
 このように大学生の周りにあるボランティア活動は、社会貢献であるのか、無償労働であるのか、それとも自身のキャリアに繋がるものなのか、とても分かりづらくなっていると感じる。特に、大抵の大学生が社会人になる前の最後の教育的な機会となる大学において、強制的や義務的といった誤ったボランティア活動を学生に行わせて良いのか。
 これからのボランティア活動について、私は一般的にボランティア活動の性格として根付いてきた自主性、無償性、公共性の3つを基準に考えていきたい(厚生労働省は『ボランティアについて明確な定義を行うことは難しい』5)と示しており、他にも創造性や先駆性なども挙げられる)。そこで、私が静岡産業大学で行っていきたいのは、ボランティア活動の情報の一元管理である。情報がなく、ボランティア活動に参加できていない大学生も存在することから、ボランティア活動を自ら希望する学生が気軽にボランティア活動に関する情報を入手できるようにサポートしていきたい。そして、「ボランティアとは」をより明確にするための研究を続けていきたい。


引用文献
1)猪瀬浩平(2020)ボランティアってなんだっけ?.岩波書店,東京.
2)本間龍(2018)ブラックボランティア.角川新書,東京.
3)二宮雅也(2017)スポーツボランティアとは?-スポーツの「裏方」を楽しむー.現代スポーツ評論,37:50.
4)リクルートワークス研究所(2018)東京2020大会のボランティア・レガシー(参照日:2021年7月31日)
5)厚生労働省(2007)ボランティアについて(参照日:2021年7月31日)