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グローカルな思考と生き方を!


 1998年のWHO(世界保健機関)総会で、それまでの世界保健憲章前文に示されていた“健康の定義”に2つのwordを付け加えるよう提案がなされた。主として近代西洋医学一辺倒の考え方を批判するという意味合いも強くあっての提案であった。2つのwordの付加については事前のWHO執行理事会では大方の国々の賛同を得ていた。しかし本会議での席上では、それまでの健康の定義は機能しており、緊急性が低いという理由で審議にも入らず採決は先送りにされた。それは提案した国々がイスラム諸国やそこに繋がるアフリカの国々であったことが大きいといわれている。彼らの国々では今日においても伝統医学(心理療法、心霊療法、ホリステイック医療、呪術療法、祈祷医療あるいはヒーリングなど)を生活に取り入れている。伝統医学を主張する意見への反発、あるいは宗教上の考え方の相違から、審議に値する提案ではないという反対意見が主として西洋諸国から出され、結果的には採決どころか審議もなされないままになっている。
 1948年に採決され、世界的に承認されてきた世界保健憲章前文の“健康の定義”とは「健康とは身体的、精神的および社会的にも完全に良好な状態であって、単に病気でないとか、虚弱でないということだけではない」という一文である。さて、付け加えるよう提案された2つのwordとは何か、一つはdynamicという言葉であり、もう一つはspiritual という言葉である。「Health is a dynamic state of complete physical, mental, spiritual and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity」。静的に固定した状態ではないということを示すdynamic は、健康は常に流動していて一定の状態ではないこと、健康と疾病は別個のものではなく連続したものであるという意味付けから、またspiritualは、人間の尊厳の確保や何を信じ、どう生きていくのかという生き方や自己実現に関わる生活の質を考えるために必要で本質的なものだという観点から、字句を付加することが提案されたのだと説明されている。
 地域に根付いた伝統文化を尊重し、その地域の繁栄に貢献していく考え方をローカリゼーションあるいはローカリズムという。一方、国や地域の枠を超えて、地球規模で政治・経済・文化を理解し協調しながら平和と安寧を図ることをグローバリゼーションあるいはグローバリズムとよんでいる。そして、いつからこの言葉が使われ始めたのかは分からないが、最近は“グローカル”という言葉をよく耳にする。 グローカルという言葉は、「地球規模の」とか「世界的な」というグローバル(global)という言葉と、「地元の」とか「地域の」という意味のローカル(local)という言葉を重ね合わせた造成語である。もともとは経済の世界から出発したようではあるが、その意味するところは“世界的視野に立って物事を考え、地域視点で行動せよ(think globally, act locally)”という考え方である。
 排外主義的ナショナリズムが横行する今日の世界で、一国の利益ばかりを優先したり、自己の考え方だけが正しいと考え行動する生き方から脱却し、グローバルな視点でものを考え行動できる人こそ、ローカルを大切にした生き方ができると私は信じている。WHOの審議のように、事の本質を見ずにヘゲモニー争いや最初からバイアスのかかったものの見方では建設的な発想は何も生まれない。
 私は大学で学ぶ学生の皆さんにこそ、グローカルな視点で物事を捉え、考える力を養ってほしいと思う。そのことによって世界の平和の実現と国際社会で貢献できる人間に育ってほしいし、そういう生き方をしてほしい。また、大学の教育理念としてもそうあってほしい。