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経済学は役に立つのか


経済学は役に立つのか

※職位や内容は投稿時のものです

2022年3月31日更新

 経済学は役に立つのかを考えてみたい。日本に経済学が紹介されたのは明治時代で、当初はイギリスやドイツから移入された。その後、経済学者・福田徳三によって理論経済学や経済政策への知見が日本の大学教育などに浸透していった。福田徳三によって、経済学は経済理論の研究者と経済政策の研究者に分かれて、研究が進んできた。この2つの流れは今も続いている。

 導入された理論経済学の主要内容は、政府は市場をゆがめることはするなという認識がほとんどだった。つまり、政策を議論する際に、政府による介入という考えはなかった。ところが、1936年イギリスの経済学者ケインズが『雇用・利子及び貨幣の一般理論』を発表し、政府が経済政策を行う際、リーダーシップを持って行うことの理論的根拠を与えた。これ以降、経済理論が実際の政策に用いられる契機となった。その後、政府が政策を行うことの是非はどこまで経済に介入するか、市場の失敗や市場の効率をどこまで仮定するかなどの仮定の違いによって、新古典派やケインジアンなどのいくつかの学派に分かれている。使われる用語の定義は同じで政策のツールも同じだが、効果が若干異なるという状況にある。

 そして、経済理論の発展はケインズ以降も続いて、完全競争の議論から独占的競争を扱うモデルとなり、産業間交易の分析しかできなかったモデルが産業内貿易にも対応し、技術的に同質な企業しか分析できなかったものが技術的に異質な企業も分析が可能となった。経済学における理論的な分析は、より現実を網羅できるようになってきている。

 たとえば、オークション理論もその一つである。電波行政で電波がオークションによる配分となっていないのは、先進国では日本くらいだという。経済学の理論が実際の市場を形成した例となる。経済理論の紹介も当初イギリスやドイツから始まったが、経済学の主流がアメリカに移行し、日本に紹介される経済学もアメリカから入ってきた。1980年代以降には、アメリカで学位を取った経済学者が日本の経済学に影響を与えている。

 経済学の導入当初、理論は役に立ったといえなかったが、経済政策寄りあるいは社会政策寄りの研究者が活躍した。経済政策寄りの研究者と言ってもアカデミックな専門のトレーニングを受けた人々で実務の世界で活躍していても書籍や論文を発表していた。 
 
 ひとつの事例は、大阪市長となった関一がいる。関は自分の研究分野である社会政策を大阪の街に築き上げた。地下鉄、大阪市立大学(現大阪公立大学)、御堂筋通りは関が作ったものである。大阪の経済を語るときに欠かせない『大大阪』時代は、東京よりも人口が多く、日本の経済の中心地としての大阪を作った。この時代を築いたのは関一その人である。経済理論の発展は先に紹介したが、そうした理論を経済政策として提言する経済学者が少なくなって今に至っている。これまでとの違いは、アカデミックなトレーニングあるいは経済学のプロパーではない場合が少なくない。しかしながら、経済学のトレーニングを受けた経済学者による経済政策寄りの研究がなくなったわけではない。たとえば、レオンチェフがその設立にかかわった環太平洋産業連関分析学会では、産業別に整理されたデータによって分析し政策提言を行っている。

 総じて、現在の経済学は経済学理論が学部レベルの知識では追い付かなくなり、経済学教育の過渡期を迎えている。役立つかという質問に答えるとすれば、役に立つが、使えるレベルまで教えていないということになる。経済学は役に立つと言われるために、より使える経済学を紹介していきたい。