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歴史って面白いの?:体育・スポーツ史の研究を通じて


※職位や内容は投稿時のものです

2022年10月14日更新

 「歴史」と聞くと、皆さんはどんなイメージを持ちますか?

 「難しい」「地味」と感じる人もいれば「面白い」「楽しい」と感じる人もいると思います。

 私のようなスポーツ科学分野では、体育・スポーツ史の研究を行っていても「何が面白いの?」「何の役に立つの?」と言われたこともあります。たしかに、歴史を知ったからといって選手のパフォーマンスに役立ったり、スポーツ指導に活動されたり、健康寿命が延びるといった実用性に乏しいかもしれません。こうした実用性の乏しさから「何の役に立つの?」といった疑念が生まれるのでしょう。

 私はこの歴史という研究に「ロマン」を感じています。

 2017年に公開された映画『本能寺ホテル』では、映画の冒頭で初代ドイツ帝国宰相であるオットー・フォン・ビスマルクの名言が流れます。

『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』

 ここで言う愚者とは自ら失敗を経験して初めて失敗の原因に気づくが、賢者は先人の経験(歴史)を学び、同じ失敗を繰り返さないようにする、という意味です。すなわち、歴史とは、過去の失敗を繰り返さないための教科書なのです。例えば感染症の防止や地震、津波といった自然災害の防止は、過去に起こった失敗から人々は学び、同じ失敗を繰り返さないように努め続けて現在に至っているのです。

 イギリスの歴史家であるエドワード・ハレット・カーの著書『歴史とは何か』では「歴史とは現在と過去との対話である」と歴史哲学の精神を述べています。現在は過去との関係を通じて明らかになり、過去を主体的にとらえることなしに未来への展望をたてることはできません。

 歴史を好きな人は思想家や探究心が強い人が多いと言われています。私も当てはまります。私は幼いころから『学習漫画 日本の歴史』が愛読書でした。NHKで放送されていた『その時歴史が動いた』を見入ってしまうことも多々ありました。これは歴史が好きであった祖父や母親の影響も強かったと思います。

 私はスポーツに没頭した思春期を過ごしました。大学卒業後に恩師のもとに訪れて挨拶に行った際、大学院を勧められて「研究をするなら何がいい?」と聞かれ、迷わず「歴史が好きなので歴史研究がいいです」と答えました。こうして大学院に進学し、オリンピック・ムーブメント史の研究を始めました。多くのアスリートは研究の道に進む際に自身の経験を通じて、自分の経験に還元する研究を行う方が多いと思います。しかし、私はロマンを求めて歴史研究の道に進みました。

 私は「歴史研究って、どんな研究ですか?」と尋ねられると「探偵や冒険家みたいな研究かな」と答えます。事件が起こり、探偵は犯人を見つけるために証拠を集めます。物的証拠や証言から考察し、真犯人を見つけ出します。歴史研究も同じです。真相を明らかにするために様々な文献から知識を深め、当時の史料や証言から明らかになっていない問題(真実)を明らかにするのです。私はこれまで、日本国内のみならず、ヨーロッパやアメリカに史料という宝を探しに行きました。自分の探し求めていた史料を発見できた時は思わず感涙したこともあります。また、手書きの筆記体で書かれた文字を解読した時は独特な爽快感を味わうことができます。

 歴史が好きという私の感性に共感してくださる方は、いらっしゃるでしょうか?私は1人でも共感してくださり、新しい発見を体験したいという方を心待ちにしています。今日も、そしてこれからも、私はロマンを求めて新しい歴史史料を探しに行きます。


出典
E.H.カー(著)、清水幾太郎(訳)『歴史とは何か』岩波書店、1962年