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大学教員に「転職」して・・・。


※職位や内容は投稿時のものです

2022年7月29日更新

 今年3月末で20年弱勤務した航空会社を退職して大学教員になった。転職自体は初めてのことではない。大学卒業後に新卒で就職した総合商社も3年務めてMBA取得のために英国に留学する時に退職したし、帰国後に就職した通信インフラの会社も2年務めて航空会社に転職している。だから、転職は慣れっこになっているはずである。しかし、今回の転職はいつもと勝手が大きく違った。もちろん、20年弱という前職の期間の長さもあっただろう。自分自身が歳をとったというのもあっただろう。でも、一番の大きな違いは仕事自体が大きく変わる、つまり、本当の意味での「転職」だったからかもしれない。

 今年3月まで務めていた航空会社での経験を振り返ると、国際航空貨物のマーケティング部門で外国航空会社との提携業務、イールドマネジメント業務、空港オペレーションの現場で搭載管理業務、大阪支店で国際航空貨物の営業やカスタマーサポート、本社で国際貨物ハンドリングの品質管理、ソウルに駐在し金浦空港で運航管理、最後は羽田空港で国際旅客ハンドリングを経験した。よく考えてみるとずっと同じ会社の中にはいるけれどもさまざまな職務を担当している。思い出してみると、通信インフラの会社でも総合商社でも同じ会社にいながらも多くの職務を経験したような気がする。そう考えると、日本の会社員は一つの会社(雇用主)に属しながらその会社の中で職務を転々としていく「社内転職」を繰り返させられている。なので、日本の会社員にとって、所謂「転職」は「転職」というよりも「転社(雇用主を変えた)」というのが正しい表現なのかもしれない。

 一方で英米のように転職が一般的な社会ではどうなのだろう?英国在住のビジネススクール時代の同級生に聞いてみると、英国ではより良い待遇を求めて会社(雇用主)を変えていくことは一般的であるが、どこの会社に行っても同じ職種を続けることが一般的らしい。つまり、英米でも「転職」ではなく日本同様に「転社」が一般的なのだ。その友人は新卒からずっと広報の分野で経験を積んできているが、若い頃は大都会ロンドンで働いて刺激的な生活を送り、人生の後半戦を迎えた現在は同じく広報の仕事をしながら、風光明媚な湖水地方に生活の拠点を移してカンブリア地方の美しい自然を満喫している。実に羨ましい話である。広報のスキルと経験を活かして自身のライフスタイルとキャリアを両立させているのだ。まさに「ジョブ型雇用」のメリットである。

 ジョブ型雇用では働く側(被雇用者)には高いスキルと専門性が求められるとされ、メンバーシップ型雇用に慣れた日本では恐れられている面も多い。しかし、よく考えてみると日本のメンバーシップ型雇用のように自分が未経験な業務に挑戦したり、興味のない業務に就くことを強要されたりすることもなく、自分が培ったスキルや専門性をずっと発揮すればいいシステムでもあるのだ。また、そのスキルや専門性をもとに自分のライフスタイルに合わせてキャリアを積んでいくことができる。メンバーシップ型雇用のように会社の都合で転勤を強要されることもなく、仕事さえあれば自分の好きなところで暮らすことができるのだ。人生にはさまざまなライフイベントがあり、それらはキャリア形成にとって不利になることもある。しかし、ジョブ型雇用のもとでは一旦キャリアを中断しても市場価値の高いスキルと専門性さえあれば復帰も容易なので、あまりデメリットを恐れずにライフイベントを迎えることもできる。こう考えると今起こりつつあるメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への転換も決して悪いことばかりではなく、歓迎することもかなり多いのではないだろうか?

 しかし、メンバーシップ型雇用が長く続いた日本企業ではその雇用形態を前提として作られている風習や制度が多くあり、それがジョブ型雇用のメリットを享受しにくくしている。例えば、退職金の自己都合減額、年功序列、新卒一斉採用、定年退職制度など例を挙げるときりがない。これからジョブ型雇用に転換していく上でこれらの風習や制度はできるだけ早いうちに取り除かれねばならないであろうと思う。

 私の転職に話を戻そう。転職して次世代の育成に関われる機会をいただけたのだからやるべきことは何か?ひとまずできることは自身の企業での経験と研究者としての研究の成果を融合して私の授業を受けてくれる学生さんたちの「競争力」を高めることかと思う。今までジョブ型雇用のメリットを述べてきた。しかし、一方でジョブ型雇用の下ではメンバーシップ型雇用よりも競争が激化することは明白である。その競争に勝ち残っていける「競争力」を学生さんたちに身につけてもらうことを目先のミッションとしたいと思う。