グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



ホーム >  リレーエッセイ >  学生の回答から「スポーツ」を考える

学生の回答から「スポーツ」を考える


准教授 山田悟史 (スポーツコーチング、水泳、バイオメカニクス)
 
 スポーツって本当に良い物なんだろうか。何が良いのだろう、どうすれば良いのだろうと、常に自問自答している。その中で学生はどのように思っているのだろうと、質問をする事がよくある。今回はその回答を通して「スポーツ」を皆さんにも考えてもらいたいと思う。(ここでいう「スポーツ」とは競技スポーツを指す)

「スポーツ活動を通して学べることって何だろう?」
  • あいさつ
  • 礼儀正しさ
  • 努力、忍耐力
  • チームワークの大切さ
  • 感謝

 学生の主だった答えはこんな所であった。
 その他にもいくつか質問をしたが、その中に「スポーツだからそういうのを学べるのだ」というような意見が少なからず見られた。以前、ニュースで運動部の減少などが取り上げられたとき「じゃあ生徒はどこで礼儀や人間関係を学べばいいんだ?」といった意見がいくつか見られたが、それと同じで、「スポーツでなければ学べない」、「スポーツをやっていない人は礼儀や挨拶がなっていない」という事である。

 「塾や勉強」を言い訳にすることに対しては、「人としてどうか」などとかなり否定的な意見が聞かれたが、「練習や大会」で勉強しない(できない)ことに対しては、「強くなるためにはしょうがない」や「できるならした方が良い」などの意見があった。
 「勉強ができても仕事ができるとは限らない」という意見はもちろん多いが、「勉強しかできないやつは仕事ができない」という意見が多く聞かれた。しかしながら「スポーツしかできないやつは仕事ができない」という風には思っていないようである。
 前々からスポーツをやってきた学生の多くが、無条件に「スポーツは良いものだ」あるいは「スポーツをやっている人は偉い」とすり込まれているのではないかと感じていたが、今回の回答からその感覚は強くなった。 以前のリレーエッセイで菊野教授がこどもの3段論法について述べられていたが、それと同じだろうか。
 「スポーツは礼儀や挨拶を学べる」「自分はスポーツをやっている」「自分は礼儀や挨拶が身についている」というようなものが、もしやこどもの頃に植え付けられ、それを信じたままここまで来ているかのようである。
 でも果たしてそうだろうか。
 スポーツを特にやっていなくても、礼儀正しく、勤勉で努力家の人はたくさんいる。反対に、スポーツをやってきました!という人中にも、ただ声が大きいだけの横柄な人や、忍耐力に欠ける人もいる。そう考えると「スポーツ」が持つ良いところ、もっと極端に言えば「スポーツだけ」が持つ良いところ、って何だろう?と考え込んでしまう。
 私は「スポーツ」の良いところを否定したいわけじゃない。むしろ「スポーツ」は良いところがたくさんあるはずで、それを適切に使って行くべきだと考えている。でも無条件に「スポーツは良いもの」と思考を停止させてしまえば「スポーツをやってれば良い!」となって指導者も選手も楽かもしれないが、楽をした分「スポーツ」が落ちぶれてしまったり、盲目的に信じてスポーツをやってきた選手が社会と直面したとき「こんなはずじゃなかった」となってしまうことが心配なのである。

 タレントであり、陸上十種競技の元日本チャンピオンの武井壮さんも「日本チャンピオンになれば何かが変わると信じていた。しかし日本チャンピオンになっても何も変わらなくて、愕然とした」というようなことをおっしゃっている。
 この問題は学生の問題ではなく、指導者の問題である。これから指導者を目指す学生には「スポーツの良い所って?」「スポーツってそもそも本当に良いの?」「スポーツを通して何が身についているの?」ということを、スポーツの限られた世界ではなく、社会に対してどうなのかを、常に自問自答して欲しいと思う。スポーツが外の世界に「スポーツの良いところってこんな所だよ」と胸を張るためには、社会的に見てどうなのかという意識が必要なのではないだろうか。

 私が専門としているスポーツ保育でも、幼児期には「適切」な運動が必要であるとしている。ただ運動すれば良いのではなく、「適切」でなければ逆効果にもなりかねないのである。競技スポーツに置き換えてもこれは同じ事ではないだろうか。
 蛇足であるが、「マツコ&有吉の怒り新党」というテレビ番組が「家族内で挨拶『する』か『しない』か」を332人にアンケートした結果、「する71%」「しない29%」であった。また「しない」と答えた60代男性の主な意見が「する必要性を感じない」というものであった。子どもには「挨拶しなさい」「返事をしなさい」という親同士が「挨拶」「返事」をしない家庭はどれくらいなのかが気になった。

参考文献
菊野春雄「子どもは単純か」静岡産業大学HPリレーエッセイ、2015年2月5日
早稲田大学スポーツナレッジ研究会(編)「スポーツリテラシー」創文企画, pp10-30, 2015