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ROEを考える


学生部長 教授 佐藤和美(管理会計論 経営と会計)

 企業価値を何に求めるかによりそれを測る指標は異なり、その結果測定指標は多岐にわたりますが、今再び自己資本利益率(ROE)が注目されています。ROEは当期純利益を自己資本で割って求められます。自己資本を用いてどれだけ効率よく当期純利益を稼いだかを示し、資本効率を測る指標です。自己資本は株主持分を示し、当期純利益は配当の原資ですので、ROEは投資家たちが企業価値を測定し、自己の投資行動や投資先の経営および経営者の良し悪しを判断する指標の一つとなります。

 少し古い新聞記事になりますが、2013年12月3日の日本経済新聞朝刊に、金融機関を除く全産業の日本企業の自己資本比率が39%(7~9月期)と過去最高を記録したと報じられました。また、2014年6月18日の同新聞には、2013年度末において、上場企業の53%が実質無借金企業となり、5年連続で最多になったことが掲載されました。

 実質無借金とは現預金や短期保有有価証券などの手元資金が有利子負債を上回っている状態を表します。また、自己資本比率は総資産(総資本)に占める自己資本の割合を示し、この比率が向上することは総資本の中で負債の割合が減り、返済の必要のない自己資本の割合が高まったことを表します。

 日本企業はバブル崩壊後長い不景気のトンネルの中で、必死のコストリダクションを行い、設備投資を控え、借金を返済し、残った利益を企業内部に留保し積み上げてきました。これらの新聞記事は、そうした日本企業の財務上の安全性が高まっていることを示しています。一方、こうした状況は、潤沢な手元資金が有効に活用されず、新たな利益創出の機会を逸失していることも如実に物語っているのです。さらに付け加えると、自己資本の増大は皮肉にも前述のROEの値を下げる要因ともなってしまいます。

 資本市場のグローバル化の前進や政府の成長戦略などにより、日本企業は今、変革を求められています。そうした中で、上場する企業に対しては資本効率を測定するROEに焦点が集まったといえます。日本企業の平均値は8%といわれ、欧米に比べ低い。5%を下回る企業に対しては株主総会でトップ人事に反対するよう推奨するコンサルティング企業もあります。多くの日本企業はROEを向上させる動きを加速し始めました。

 ROEは前述したように、当期純利益÷自己資本で算定されます。この計算式を展開すると、
  ROE=売上高当期純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ
となります。ROEはこの式にみられる3つの指標の掛け算です。

 この式から、ROEを向上させるにはどのような手を打てばよいかが見えてきます。売上高を伸ばす。コストの発生を抑える。遊休資産を整理し無駄な投資は控え総資産の金額を抑制する。資産構成を見直し、現預金などを成長投資に振り替える。リスクをはらむが慎重に負債の比率を高め、成長投資に充てる。自社株買いや増配などによる自己資本の減少を図る。ROE数値を高めることだけを考えれば以上の事柄を行えばよい。

 しかしながら、ご承知のように企業経営とはROEを高めることが全てではありません。従業員の雇用、製品・サービスの品質、環境保全などを考慮するとコストは膨らみます。長期的な視野で製品開発への投資や成長への投資も必要です。日本企業に期待されることは、これまで日本の風土で培ってきた多くの利害関係者から信頼を得られる経営スタイルを土台にして、株主への還元も含めて、新しい時代に持続的に価値創造し社会に貢献できる企業経営を模索していく姿ではないでしょうか。