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「ナニワ金融道」ふたたび


教授 丹羽由一 (企業経営、財務管理、国際金融、アジア経済、地域経済、公共政策)
「カネは人間がよう見えるやろ..」 
「どんなカネでもカネはカネや!」
「この仕事は契約書の一行、ハンコ一つにも絶対妥協したらあかんのや」

 あの伝説のドラマ「ナニワ金融道」が、今年20年目を機に復活しました。緒形拳が演じた金子高利社長はもういませんが、主役の中居クンは前髪がかなり後退したものの健在です。このドラマは一貫して「エゲツない大阪の金貸し」というイメージを前面に出しており、ヤクザ顔負けのパフォーマンスが目を引きますが、人気の秘密は実は別のところにあります。それは現実の「金融」を忠実に再現しているという点です。舞台となるブラックなマチ金「帝国金融」で行われている融資、保証、回収などの手続きはすべて金融のルールに則っており、意外なことにすべて合法です。契約書や手形なども一般の銀行が使っているものと同じで、違いは取立ての際の言葉遣いが丁寧か乱暴かということくらいです。

 こういったリアリティは、原作者の青木雄二が実際に資金繰り倒産を経験し、金融のウラを見てきたことから来ています。そのおかげでこのドラマは金融実務やマネー講座の教科書としても大変有益なものとなっています。以下はいずれも第一話のシーンですが、あなたはきちんと理解してましたか?

  1. 保証人と連帯保証人
     高橋正子(深津絵里)が鉄工所を経営する父親の保証人になる場面があります。500万円の借入の借用証に記名捺印するシーンで、銀行員ならば「契約書の正式名称が連帯借用証であること」「保証人の記名捺印欄に連帯保証人と印刷されていること」に気づくはずです。これは実はすごく重要なことなんです。
     皆さんは「保証人」というと、例えばアパートを借りる際の保証人などを思い浮かべるでしょうが、カネの貸し借りに関する場合は「連帯保証人」といって非常に責任が重くなります。すなわち「保証人」が民法に定める損失補償(損害が発生したら弁償する)を指すのに対し、「連帯保証人」は商法に規定されているように、債務者と同じ義務を負うことになります。だから「借りた本人が返せなくなったら代わりに返す」のではなく、はじめから「本人と連帯して借りた」という立場なのです。借りた本人に関係なく、いきなり差押えにあっても一切抗弁することはできません。
  2. 期限の利益喪失
     孫請土木が不渡り(振り出した手形を期日に決済できない)を出し、帝国金融が取立てに出向く場面があります。400万円を5回分割返済で貸し、利息込みで88万円の手形を5枚切らせ、このうち3回目が不渡りになったわけです。押しかけた帝国金融の高山(綿引勝彦)や桑田(小林薫)に対し、孫請社長(花沢徳衛)は親戚から工面した300万円のうちから、この3回目の手形88万円を買い戻したところ、高山や桑田は残り2枚(4回目と5回目)の手形も直ちに買い戻せと迫ります。これが「期限の利益喪失」です。
     たしかに4回目と5回目の返済期限はまだ先ですが、借用証にははっきり「1回でも返済が滞ったら、直ちに債務全額を返済します」と条項が入っています。これはあくどいマチ金に限ったことではなく、すべての銀行借入についても同じです。こうしておかなければ、残りの返済を待っているうちに他の債権者が差押さえを実行したり、債務者が逃げたり、破産したりして回収できなくなるからなのです。「一度でも遅れたらゲームオーバー」ということを知っておいてください。孫請土木も結局倒産しました。
  3. 自己破産
     連帯保証人になったことがもとで借金地獄に落ち入り、サラ金から追いまくられる高橋正子が、灰原(中居正広)のアドバイスで自己破産を申請する場面があります。これで彼女は一切の取立てから解放され、新たな人生に踏み出すという筋立てですが、現実はこんな希望に満ちたものではありません。
     たしかに裁判所に破産が認められれば、借金はすべてチャラになります。しかしその一方で資産は全部没収されますし、破産者に対してはさまざまな制約が課されるということを忘れてはいけません。まず破産が決定すると住所氏名が官報で広報され、もう二度とお金を貸してもらえないのはもちろん、クレジットカードも持てません。場合によっては後見人の承諾がないと高額の買物もできません。そして一番痛いのは、多分正社員には一生なれないということです。
     元銀行員の立場から言わせてもらうなら「返せなくなったら自己破産」ではなく、あくまでも「借金はどんなことをしても返す」というのが基本です。


 どうですか。「知らなかった」では済まないことも多いでしょう。このドラマが某メガバンクの新入行員研修で使われているというのも肯けますね。ドラマのメイキング映像で深津絵里もこう言ってます。「とても怖いお金の世界を、このドラマを見て勉強してほしいなと思います」。