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GDPのひみつ -不動産業の割合はなぜ大きい?-


教授 牧野 好洋(計量経済学、経済統計)
 皆さんは「GDP」という言葉を新聞やニュースで見たことがあると思います。GDPは、大学の経済学の授業でも、頻出の用語です。経済学の単位を修得するためには、以下をきちんと理解しておくことが、少なくとも必要ですね。

  • GDPはGross Domestic Productの略。国内総生産と訳される
  • GDPは一定期間に国内で生み出された「付加価値」の合計
  • GDPはフローを対象とする指標。ストックを対象としない
  • GDPは生産面、分配面、支出面の三面から捉えられる
  • 名目GDPは物価変動の影響を含むが、実質GDPはそれを含まない

 これらについては、経済学の授業で散々話しているので、ここでは書きません。不明な点があれば、教科書で調べてください。

 今回は、授業であまり話さないGDPのひみつ(別に秘密にされているわけではありませんが…)の1つ、「不動産業の割合がやけに大きい」理由を探りましょう。

 上記のとおり、GDPには生産面、分配面、支出面の三面があります。そのうち、「生産面から見たGDP」は各産業が生み出した付加価値を捉えます。

 内閣府経済社会総合研究所『平成26年版 国民経済計算年報』(GDPが出ている本です)によれば、2011年、名目GDPは471.3兆円、そのうち不動産業は56.7兆円、不動産業の割合は12.0%でした。

 一方、総務省統計局「平成24年経済センサス-活動調査」(事業所や企業の活動状態を捉える調査です)によれば、2011年、付加価値額は244.7兆円、そのうち不動産業は8.4兆円、不動産業の割合は3.4%でした。

 どちらも同じ年を対象とした統計なのに、不動産業の割合はずいぶん違いますね… この背後には、どのような理由があるのでしょうか。

 もちろん、その理由のひとつは、概念の相違です。例えば、前者は減価償却や、企業が負担する社会保険料、農林漁家・公営企業・政府サービス生産者の付加価値を含みますが、後者はそれらを含みません。そのため、前者は後者より全般的に大きな値です。

 もうひとつの理由は、GDPの中で計上される「帰属家賃」です。

 借家に住む人は、家賃を払います。この家賃はGDPの対象です。一方、自分が所有する家(持ち家)に住む人は、ふつう、自分の家に家賃を払いませんね。ところが、GDPでは、持ち家に住む人は、自分の家に家賃を払うとみなすのです。この家賃を「帰属家賃」と言います。帰属家賃もGDPの対象です。

 GDPはなぜ、このような扱いをするのでしょうか。実は、この帰属家賃により、GDPは住居形態によらなくなっています。例えば、住居が借家から持ち家に変わり、家賃を払わなくなっても、帰属家賃の支払いが生じるため、GDPが減少することはありません(簡単化のため、家賃と帰属家賃は等しいと仮定します)。逆に住居が持ち家から借家に変わり、家賃を払うようになっても、帰属家賃の支払いが無くなるため、GDPが増加することはありません。

 GDP統計(これをSystem of National Accounts、略してSNAと言います)では、持ち家に住む人は、不動産業を営む事業主とされます。ただし、その不動産業の賃貸物件は「自分の家」、それを貸し付ける相手は「自分」です。SNAでは、持ち家に住む人を不動産業の中に位置づけ、帰属家賃を以下の図のように記録します。

 持ち家に住む人は、不動産業に帰属家賃を払います。不動産業はそれを受け取り、中間財にかかる費用を除いた分を付加価値とします。付加価値の一部は家計に分配され、帰属家賃支払いの源泉とされます。家計は、それをもとに帰属家賃を支払います。

 持ち家に住む人は、実際には家賃を支払いませんが、SNAの中では、帰属家賃を支払い、それは統計の中でぐるりと一周するのです。

 GDPにおいて不動産業の割合がより大きい理由、それは同部門が帰属家賃を含むからです。前掲書によると、2011年の帰属家賃は24.5兆円でした。帰属家賃を除く名目GDPは446.8兆円、帰属家賃を除く不動産業は32.3兆円、不動産業の割合は7.2%ですね。これで少し、経済センサスの値に近づきました。

 GDPは、一国経済の活動を素朴に集計した指標ではありません。一国経済の活動や状況を経済モデルのように体系的に捉え、その一部を取り出した指標です。GDPでは、現実をより適切に記述するよう、色々な工夫がなされています。GDPの読み取りには、それらを一寸、知っておくことも重要ですね。