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コーチとして思うこと


講師 山田悟史 (スポーツコーチング、水泳、バイオメカニクス)

 私は大学教員になる前、フリーのプロ水泳コーチ(自称)をしていました。スイミングスクールなどから依頼を受けて、選手コースの強化や、スイミングスクールでの指導に不満や物足りなさを感じている子どもたちのプライベートレッスンなどを行っていたのですが、今回はその時の話です。

 あるチームに、選手の強化と同時に、新人コーチの育成も兼ねて依頼を受けました。それまで「とにかく頑張れ!」という指導を受けていた、小6〜高3の選手達でした。そこで私は「頑張ること(疲れること)が練習の目的ではない。練習の意味や目的に沿って、ラクにやるところと、必死にやるところを区別するように。但し、アップからダウンまで練習は100%丁寧に行う事。」と指導をしました。

 しかし、なかなか上手くいきません。今まで疲労困憊することが「良いこと」で、(体力的に)ラクをすることは「悪いこと」であるかのような指導を受け、ただひたすら頑張って泳いでいたわけですから、選手達の戸惑いも分かります。いきなりそんなこと言われても、ねぇ?って感じでしょうか。

 1年くらい経ったころ、ある選手が練習前に、私のところにやってきました。「コーチ、先日言われたバック(背泳ぎ)の入水位置を意識してるんですが、アップの時もう一度見てもらえますか」と。その頃から彼の練習への取り組み方は変わっていきました。速く泳ぐためにはどうすれば良いか、自分で考え工夫し、こちらが言う前に、質問をしてくるようになりました。目を見張ったのは、他の選手に注意をしていると、それとなく聞いていて、自分はどうなのかチェックしていることでした。

 成績の伸びはあまり変わりませんでしたが、もう少し体ができてきたら楽しみだな、と思っていた矢先、彼はお父さんの転勤で引っ越し、チームを辞めました。彼は中学校2年生。選手コースに所属はしているものの、選手としてのレベルとしては決して高くはなく、どちらかと言うと練習について行くのも精一杯という感じの選手でした。この1年半という短期間のことだけを考えたら、全てを手取足取り指導して、手っ取り早く成績を上げることも可能だったとは思いまし、それもコーチングとして一つの選択肢ではありました。

 あれから約10年。その後、彼がどうなったかは分かりませんが、もうそろそろ就職している頃、今はどうしてるかなと思い出します。あのときの指導は、彼にとって良かったのだろうか、少しでも中学生の間に成績を伸ばしておいた方が彼にとって良かったのだろうか。