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中国の官僚腐敗問題


教授 劉 志宏 (国際関係史、経営史)

 最近、元中国共産党中央政治局委員党中央軍事委員会副主席上将徐才厚が職権乱用、収賄などで摘発された。彼は中国軍制服組の最高位である。これは2012年同政治局委員重慶市党委員会書記薄熙来が逮捕されて以来、摘発されたもっともクラスが高い官僚の腐敗事件でもある。近年、官僚腐敗の普遍化が中国の大きな社会問題となっている。ここ10年ほぼ毎年4万人以上が立件され、昨年開催された全国人民代表大会(国会)での検察トップの報告によると、2013年に横領や贈収賄で立件された公務員が前年比8.4%増の5万1306人に上った。そのうち閣僚級が8人、局長級が253人もいた。一昨年党のトップに就任した習近平が腐敗官僚の摘発に力を入れるようになったためでもあるが、この傾向が加速化し、今年に入り、閣僚級だけですでに十数人も摘発されている。ネット上では、もっと偉い人がもうすぐ摘発されるだろうといううわさが流れ、中国外交部(外務省)の高官も記者会見でそれを示唆するなど、次は誰だというのが国民の注目の的となっている。今までネット上での噂に対し政府は一概に否定するが、後にその多くが事実であると証明されるのも、中国の常識の一つとなっている。

 中国の官僚腐敗問題のもう一つの特徴は、公金横領や贈収賄の金額が破格なことである。2012年摘発された中将谷俊山は、不正で得た公金で北京の一等地に数十億円かけて豪邸を建て、上司の徐才厚に金500キロ(21億円相当)を積んだ高級車アウデイA8LW12(2140万円相当)を献上した、と報道されている。最近では、中国の官僚の国外銀行での不正による預貯金総額が4兆8000億ドルに達した、とネット上で報道され、大きな話題となっている。これが事実なら、中国の一年分の国内総生産の百分の一に相当する巨額である。

 中国の官僚腐敗の普遍化、深刻化に対して、中国共産党は中央委員会以下、中央政府・省市自治区各部門に紀律委員会を設置したほか、国民告発制度を導入するなど、問題解決の対策をとっているものの、ブレーキが効かないどころか、ますます悪化していくのが現状である。なぜ中国の官僚腐敗問題が一向に収まらないのか。その歴史的背景から見ると、中華人民共和国成立後の50年代中頃から、高級官僚の特権が認められるようになり、専用の高級住宅、高級車、商店、病院、クラブなどが用意され、彼らの家族も優先的に官位昇進・抜擢されるなど、それらを享受できるようになっていた。文革でその特権が批判され、多くは剥奪されたものの、改革開放政策実施以降、それが復活した経緯がある。鄧小平の先に豊かになれるものから豊かになれ、という先富論を法治観念欠如の官僚たちが悪用し、計画経済から市場経済への制度的転換にも乗じて、公金横領、贈収賄などがエスカレートしていった。

 しかし、これだけで官僚腐敗問題の普遍化・深刻化の原因を説明するのは酷である。紙幅の関係で多くは述べられないが、一党独裁で野党による監督機能や三権分立による相互抑制・監督機能の欠如、共産党内部に設置されている紀律委員会の組織構造的欠陥など、一言でいうと、制度的要因が主因であることは間違いない。この話題は中国国内でもひそかに議論されるようになった。習近平は、たとえ党や国が滅びたとしてもこの問題を解決したいと述べ、一大決心をしたという。これは中国の今後を占う上で最も大きな出来事でもある。これからの行方を大いに注目したい。