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「半沢直樹」のウソとホント


教授 丹羽由一 (企業経営、財務管理、国際金融、アジア経済、地域経済、公共政策)
 「やられたらやり返す、倍返しだ!」

 視聴率40%を記録し、決めゼリフが流行語大賞も獲得した人気テレビドラマ「半沢直樹」。ホントに面白かったですね。銀行というジミな世界を舞台にして、しかもラブストーリーも全然ないのに、これほど熱い番組は他に類をみません。なぜこんなに人気を集めたか?そのポイントは徹底したリアリズムにあると言われます。たしかにこのドラマはかなり忠実に現実の銀行や金融ビジネスを再現しています。オフィスや役員室、社宅などもほぼ実際の雰囲気に近く、支店長が単身赴任している借上げの高級マンションとか、支店の金庫室の解錠手順とか、金融庁検査の疎開資料とか、けっこう細かいところまでこだわっています。また外からは「気取ったところ」に見える銀行も中に入ると実は「ヤクザな世界」で、ドラマに描かれた行内での罵倒や怒鳴り合いにもそれほど違和感はありません。このあたりは、原作者がもと銀行員であることや、現役の金融・税務関係者が監修しているからこそできたことだと思います。

 しかし、しかしですよ、かつて日本○○銀行で名古屋支店融資課長から本店営業部次長という、半沢直樹そっくりなコースを歩んだ筆者からみると、残念ながら実際には「アリ得ナイ」ことがいくつかあります。これらは見落とされたというよりは、ドラマの演出上そうせざるを得なかったということでしょうが、金融ビジネスを正確にご理解いただくため以下に指摘しておきます。
  1. 最優良店舗表彰式はあんなに大勢集めない
    浅野支店長(石丸幹二)が無理矢理融資実績を積み上げて、大勢の前で頭取から表彰を受ける場面がありますが、学校じゃあるまいしあんなに行員を一堂に集めたら明らかに業務に支障が出ます。そんな無駄なことはせず行員に1分でも長く仕事をさせるのが銀行です。実際には役員昼食会あたりで形式的に表彰し、行内LAN(業務用ネット)でアナウンスする程度で、ちなみに頭取の年頭訓示もいまでは行内に動画配信されるのが一般的です。
  2. 融資課長が支店長の経歴を知らないわけはない
    浅野支店長が実は大阪出身で、西大阪スチールの東田社長(宇梶剛士)と中学で同級だったということが、同社への不正融資究明の決め手となるわけですが、これを半沢が知らなかったということは通常ありえません。銀行の支店といえば一つの家族のようなもので、支店長と融資課長はいわば家長と長男、業務上一緒に行動する時間も一番長いはずです。互いの家族構成や酒の好み、カラオケの持ち歌やドライバーショットの球筋だって隠すことは無理です。
  3. 外銀はティッシュなど配らない
    東田社長の隠し口座発覚のヒントになるのが、東田の車の中のティッシュボックスに印刷されていた某外国銀行のロゴマークという設定でしたが、これも明らかに無理筋です。ドラマの中でも語られていた通り、外銀、特にインベストメントバンク(投資銀行)は金融資産数億円以上の富裕層しか相手にしないので、顧客にティッシュや洗剤などは配りません。かわりにブランドものの皮財布とか、高級ワインとか、卓上世界時計などをプレゼントしてくれます。リテール主体の邦銀や郵便局とは全く違うのです。

 どうですか。前半だけでもこんなにあります。でもここまでリアリズムを追求するよりは、「一般人がイメージする銀行」を描いた方がむしろウケルのでしょう。このドラマの面白さは、現実と虚構をミックスしたところにあるのかも知れません。

 最後に登場人物について。最も現実の銀行マンに近いのは同期の渡真利(及川光博)と大阪西支店の垣内(須田邦裕)、この二人は本当にいます。このほか机をしつこく叩く人事部の小木曽次長(緋田康人)や、腰巾着の江島副支店長(宮川一郎太)のような行員もいるにはいますが、実際にはだいたい窓際に追いやられてます。反対に最も銀行員らしくないのはもちろん半沢です。言うまでもなく黒崎(片岡愛之助)のような国税査察官もいません。なお銀行の社宅に花(上戸彩)のようなカワイイ奥様が実際にいるかどうかは...ワカリマセン。