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宇宙の旅人


准教授 青木優(物理学、情報学)

 昨年(2013年9月)、1977年9月に打ち上げられ、木星と土星を観測したNASAの宇宙探査機「ボイジャー1号」が、遂に太陽圏を脱け出し、初めて恒星間空間を飛行する人工物となったというニュースが世界中を駆け巡りました。

 1980年には、ボイジャー1号が土星へ接近する時期に合わせて、天文学者の故カール・セーガン博士が監修した宇宙に関するドキュメンタリー番組『COSMOS』が日本でもテレビ放映されました。私も子供ながらに胸躍らせて観ていたのを憶えています。この番組を通して、初めて天文学や物理学の素晴らしさを知りました。あの時のボイジャー1号が、33年後、遂に太陽圏を脱け出したというのは、非常に感慨深いものがあります。

 ところで、なぜボイジャー1号が太陽圏外に出たと分かったのでしょうか?それは、次のような観測結果に基づきます。太陽の表面から吹き出す高エネルギー粒子の流れを「太陽風」と呼び、太陽系内の惑星全体をすっぽりと覆っています。この覆われた領域を「太陽圏」と呼びます。また恒星間の空間には、これより低エネルギーの粒子の流れがあり、これを「星間風」と呼びます。ボイジャー1号には、この太陽風と星間風を観測する装置が装備されており、その観測結果は逐次地球に送信されています。打ち上げ直後から、太陽風の方が星間風よりも多く観測されていましたが、2012年8月25日頃からその結果が逆転して恒星間空間に突入したことが判明しました。2014年3月3日現在、ボイジャーの公式サイト[1]にボイジャー1号、2号の地球からの距離、太陽からの距離、太陽圏の内外から観測される粒子の量などが刻々と確認できるようになっています。

 ボイジャー1号には、カール・セーガン博士の発案で「ゴールデンレコード」という金属製のレコード盤が設置されています。このレコード盤には、世界各地のあらゆる言語での挨拶、動物の鳴き声、音楽、画像などが記録されています。この目的は、ボイジャー1号が太陽系を飛び出して宇宙を漂い、どこかの星の知的生命体が見つけてくれた時に、地球と我々人類のことを知ってもらう為です。今から約4万年後、ボイジャー1号は地球から約18光年離れた麒麟座のAC +79 3888という恒星から1.6光年のところを通過する予定です。もしも、この恒星付近に知的生命体が存在すれば、彼らがボイジャー1号の第一発見者となる可能性が高いです。

 この宇宙にどれくらいの地球外文明が存在しているのかを推定するドレイク方程式という式があります。一説によれば、この式を用いると、我々の住む天の川銀河(恒星数は約2千億個)内には約1千万の地球外文明が存在し、それらが銀河系内に一様に存在していると仮定すると、十数光年先に地球外文明が一つ存在することになるそうです。その仮説が正しければ、ボイジャー1号が4万年後に知的生命体に発見される仮説も満更ではないかも知れません。

 搭載されているバッテリーの寿命を考えると、ボイジャー1号は少なくとも2020年まで観測データを送ってくれるそうです。そして、バッテリーが切れた後は地球からは確認できなくなり、一人ぼっちの旅となります。遠い将来、ボイジャー1号が知的生命体と遭遇し、彼らが地球に向けて「ボイジャー1号を見つけたよ!」と信号を送ってくれれば、ボイジャー1号が未だ健在である証拠となります。しかし、その時まで人類は存続できるでしょうか?我々もまた宇宙船地球号に乗った「宇宙の旅人」であることを忘れてはいけません。

 [1] ”Voyager - The Interstellar Mission”, NASA Jet Propulsion Laboratory,
   http://voyager.jpl.nasa.gov/
   (accessed March 3, 2014).