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通信42 昭和、下北沢とチョコレート


静岡産業大学経営学部 教授 山田一之
 2020年東京オリンピックまで残すところあと2年余り。日本中が次第に盛り上ってきているようです。若い世代の人にとって「東京オリンピック」はこれからの話だと思いますが、私ほどの年代の人は「東京オリンピック」と聞くと、ずいぶん遠くなってしまった昭和を思い出すのではないでしょうか。昭和39年(1964年)。幼稚園に通っていた私は、先生に連れられて園児総出で甲州街道(国道20号線)沿道にマラソンの応援に出かけたことを覚えています。小さな日の丸の旗を持って。
小さなころの思い出というと、もう一つ忘れられないものがあります。京王井の頭線と小田急線の交差する下北沢駅に隣接した「下北沢駅前食品市場」です(写真1, 2)。戦後の闇市(といっても私は知りませんが)の雰囲気をそのまま残したような、小さな店が集まった猥雑なアーケード街でした注。両親が下北沢近辺の出身で、私自身も比較的近くで生まれ育ったので、通路が狭くてちょっと怖そうなこの市場も遊び場みたいなものでした。


写真1

写真2

写真1(左)と写真2(右)共に http://asanoken.jugem.jp/?eid=1464 より引用
でも、たまに商店街の中にあった輸入食品屋さんにつれていってもらった時は、薄暗い商店街が言いようもなく素敵な場所に変わって見えました。まだまだ戦後の色が残る当時、カラフルなパッケージの輸入菓子が並ぶ店内は、子どもにとってまさにお菓子の家。そこで買ってもらう小さな白い包みのヨーロッパ製のミルクチョコレートは私にとって宝物で、ひとかけらずつひとかけらずつ、それは大事に食べたものです。そういえば、店内の多くを占めていたアメリカ製のお菓子ではなく、どうしてヨーロッパ製のチョコレートだったのでしょうか。どういうわけか、父は私がいくらおねだりしても、巨大で子どもの心をわしづかみにするハーシー(HERSHEY’S)の板チョコを買ってくれることはありませんでした。今となっては理由を知る由もありませんが、米軍施設にいた捕虜時代を思い出すからだったのかもしれません。それはともかくとして、もう銘柄も覚えていない白いパッケージの板チョコ。これが、私がチョコレート好きになった原点であることは間違いありません。
還暦を目前にして「チョコレートが好きだ」などと言うと、さぞチョコレートに対する造詣が深いのだろうと思われがちですが、私はチョコレートに詳しいわけでもなければ、銘柄などにこだわりがあるわけでもありません。スーパーなどで売っている100円ほどの板チョコ、赤とか茶色のパッケージのミルクチョコレートが一枚あれば、仕事がきついときも、心が弱っている時も、まあたいていの場合、すぐに幸せな気分になることができるのです。
 私は心理学・神経科学関係の研究をしていますが、この分野では様々なところでチョコレートと出会います。味覚の学習に関する実験では、刺激としてネズミにチョコレートを与えることがあります[1]。また、報酬の予期や遅延に対する反応の神経メカニズムに関する研究では、被験者に対する報酬として頻繁にチョコレートを用います[2]。さらに、皆さんは「チョコレート効果」という言葉を耳にしたことがあると思いますが(商品名の方ではありません、念のため)、これはチョコレートを食べることによる健康効果を示す言葉です。チョコレートの健康効果は大雑把に2通りに分けることができます。一つはチョコレート摂取による血圧の低下やコレステロールのバランスの改善などで、チョコレートに豊富に含まれるカカオポリフェノールの効果と考えられています[3]。そしてもう一つは、チョコレートを食べることで得られる心の健康効果です。チョコレートを食べることでストレスが緩和されるという研究は以前からありますが[4]、こちらに関してはまだその神経科学的な裏付けが不十分なようです。しかし、一昔前にセンセーションを巻き起こしたGABA(ガンマアミノ酪酸)を強化したチョコレートが機能性表示食品になるなど、チョコレートによる心の癒し効果はますます注目を集めるようになっています。これまでは食品学や栄養学での研究が中心となってきましたが、心理学の研究テーマとしても非常に興味深いものではないでしょうか。面白そうだと思う方は研究室の方へいらしてください。チョコレートの心理効果についてお話をしましょう、もちろんチョコレートを食べながら。

【注】下北沢駅前の大規模再開発のため現在はありません。

【引用文献】
1. Hernandez PJ, Kelley AE. Long-term memory for instrumental responses does not undergo proteinsynthesis-dependent reconsolidation upon retrieval. Learn Mem. 2004; 11:748-54. DOI: 10.1101/lm.84904
2. Forzano LB, Szuba M, Figurilli M. Self-control and impulsiveness in children: effects of visual food cued. Psychol Rec. 2003;53:161-175.
3. Ludovici V, Barthelmes J, Nägele MP, Enseleit F, Ferri C, Flammer AJ, Ruschitzka F, Sudano I. Cocoa, Blood Pressure, and Vascular Function. Front Nutr. 2017;4:36. doi: 10.3389/fnut.2017.00036.
4. Nakamura H, Takishima T, Kometani T, Yokogoshi H. Psychological stress-reducing effect of chocolate enriched with gamma-aminobutyric acid (GABA) in humans: assessment of stress using heart rate variability and salivary chromogranin A. Int J Food Sci Nutr. 2009;60 Suppl 5:106-13. doi: 10.1080/09637480802558508.