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国際財務報告基準(IFRS)の重要性はどのくらいあるのだろうか?


※職位や内容は投稿時のものです

2025年11月14日更新

 私の専門分野は会計学であり、前回は「会計学を学ぶことの重要性」(2022年9月30日)というテーマで執筆しました。私は現在、複数ある会計学の領域のうち、国際会計という研究領域を研究しています。今回は、近年注目される国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards、以下IFRSとする)について執筆します。

 会計学は企業の経済活動をお金で記録し、財務諸表と呼ばれる書類を作成し、その結果を財務諸表利用者へ報告する学問です。国際会計基準が必要になり始めたのは、企業が国内だけでなく海外でも経済活動を行い、その結果海外からも資金を集めたいと志向し始めたことに起因します。企業の経済活動の記録方法は各国の時代背景に影響を受けるため、国により異なっていました。その結果、財務諸表利用者である投資家は海外企業の財務諸表を理解できず、投資意思決定を行いにくいという問題点が浮上しました。国際会計基準は、この問題点の改善を目指して開発されました。国際会計基準は、開発から間もない1970~80年代はまだ各国独自の記録方法を広く認めていましたが、証券監督者国際機構(IOSCO)の支持を得たことによる地位向上をきっかけに記録方法を単一のものに徐々に統一化していきました。国際会計基準はやがて2000年代の組織改正を経て、現在はIFRSと呼ばれています。
 
 では、IFRSは現在どのくらい重要性があるのでしょうか?本稿はこの点を検討するにあたり、世界でのIFRSの適用状況と日本の証券市場におけるIFRSの占有率を見ていきます。

 第1に、世界でのIFRSの適用状況を見ます。IFRSは2000年代前半にヨーロッパで強制適用が義務付けられるとともに、アジア、北米、南米、アフリカ、オセアニア等各地域で適用されていきました。その結果、IFRSは2018年のIFRS財団の調査により世界166法域のうち強制適用144法域、任意適用12法域であることが明らかになりました。つまり、IFRSは世界の90%以上の法域で適用されており、その重要性が高いと言えます。

 第2に、日本の証券市場におけるIFRSの占有率を見ます。日本では、企業が財務諸表を作成する際、日本が作成した日本基準、米国が作成した米国基準、IFRSおよびIFRSを日本版に修正した修正国際基準のうちどれか1つを選択します。日本では2010年決算からIFRSの任意適用が認められ、総合商社や医薬品業界の有名企業が適用し始めたのを皮切りに、徐々に適用企業数が増えてきました。そんな日本の証券市場における2022年6月末時点のIFRS任意適用企業の占有率は、適用企業数は証券市場全体の10%未満ですが、企業価値を表す時価総額を基準とした場合には証券市場全体の44%であることが明らかにされています(日本経済新聞社 2023)。この調査は本稿執筆時点から約3年前の調査結果であり、IFRS任意適用企業数はその後も増えているため、日本におけるIFRSの重要性は日本基準と同水準まで高まっていると言えます。

 また、国内外の先行研究はIFRSの適用により質の高い会計情報の提供が可能になることを明らかにしています(Barth et al. 2008; Armstrong et al. 2010)。特に日本では、IFRSの任意適用により国内外の投資家からの注目度(金他 2019)や評価(譚 2022)が高くなることが明らかにされています。また、私が最近実施した研究では、日本のIFRS任意適用企業が将来の業績も考えて行う投資行動に積極的になると特定の会計情報(退職給付積立状況)が投資家の意思決定に役立つことが明らかになりました(藤田2025)。このように、日本ではIFRSの適用にメリットがあると考えられます。

 以上、本稿はIFRSの重要性が高いことを世界のIFRS適用状況と日本の証券市場におけるIFRSの占有率から示すとともに、日本におけるIFRS適用にはメリットがあることを学術研究による証拠から示しました。ただし、IFRS適用による影響は未解明な部分もまだあります。このため、企業が今後IFRSの適用を検討するのに参考となるよう、未解明な部分について今後さらに取り組む必要があるように思われます。


【参考文献】
Armstrong, C. S., M. E. Barth, A. D. Jagolinzer, and E. J. Riedl (2010), “Market Reaction to the Adoption of IFRS in Europe,” The Accounting Review, Vol. 85, No. 1, pp. 31-61.

Barth, M. E., W. R. Landsman, and M. H. Lang (2008), “International Accounting Standards and Accounting Quality,” Journal of Accounting Research, Vol. 46, No. 3, pp. 467-498.

金鐘勲・中野貴之・成岡浩一(2019)「IFRS任意適用企業の特性」『会計プログレス』No. 20、78-94頁。

譚鵬(2022)「IFRS任意適用と企業価値評価」『商学論究』第70巻第1・2号、267-284頁。

日本経済新聞社(2023)「時価総額の44%導入,資生堂・川重・・・「IFRS企業」続々,グループ管理しやすく」日本経済新聞朝刊、1月18日、16頁。

藤田直樹(2025)「日本におけるIFRS任意適用企業の退職給付積立状況の価値関連性の異質性 ―企業の投資行動の影響に注目して―」『国際会計研究学会年報』2024年度第1号(通号55号)、9-30頁。