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8.8%のインパクト


※職位や内容は投稿時のものです

2025年7月15日更新

 今回は、少し“かため”な話題です。でも、3分で読めます。

 私の担当科目の1つに教職課程(必修)の「特別支援教育総論」があります。毎年、初回の授業では、「なぜ、中学校や高等学校の教員免許を取るのに特別支援を勉強する必要があるの?」と言いたそうな顔をした学生が座っています。そこで毎年、次のような話をします。

 文部科学省は、2002年から10年ごとに全国の公立小・中学校を対象に「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」を実施しています。3回目となった2022年の調査結果1)で、学級担任等が、「知的発達に遅れはないものの学習面や行動面で著しい困難を示す」とした児童生徒数の割合が8.8%(前回の2012年調査より2.3ポイント増)であったことが発表されました。この調査は、医師の診断や専門家による判断を根拠とするものでなく、学級担任等が回答した結果なので、何らかの障害に関連づけるものではありません。しかし、この数字からは通常の学級で学ぶ児童生徒、そして教員のしんどさがうかがえます。

 そもそもクラスの中には、家庭環境、ルーツや文化、ジェンダー観、身体機能、好き嫌い、過ごしやすさなど、人それぞれにいろんな性質や考え方の児童生徒がいることを踏まえると、一人ひとりが違うことを前提とした学級づくりが原点になります。そして、特別支援教育は“障害のある児童生徒”に対する教育と考えている人がとても多いのですが、教職課程のコアカリキュラムには“障害はないが特別の教育的ニーズのある児童生徒”への教育も含まれているのです。つまり、特別支援教育の視点を取り入れた教育活動は、通常学級の教育を豊かにするために役立つアプローチともいえます。

 このような話をすると、学生の表情が少しずつ「他人事」から「自分事」に変わっていきます。日本は島国で多民族国家でもないので、同じ言語、似たような文化や生活習慣で暮らしているため、多様性という文化が根付きにくい特質があります。すべての多様性を一定担保しようとすると相応のコストがかかります。しかし、これからの大学等を含めた教育の場や労働の場、生活する地域などで「誰もが違う」という前提で、わかりあえないかもしれないけど、互いに尊重しながら一緒に物事を考えられる関係を築くことはできるよね…などと考える今日この頃です。

1)文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査
結果(令和4年)について」2022年

https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2022/1421569_00005.htm
(2025年7月1日参照)