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“ふつうってなんだろう” (by NHK for School)


※職位や内容は投稿時のものです

2023年5月31日更新

 “ふつうってなんだろう”は、NHK for School が提供している2分のアニメシリーズです。周りの人と感じ方が違う、人とうまくコミュニケーションを取れない、感情をコントロールするのが難しい…。そんな「どうにもならない“ふつう”」を抱える子どもにスポットをあてた内容です。私たちは、“ふつう”という言葉をよくつかいます。たとえば、「今日の体調は?」と聞かれて「う~ん。“ふつう”かな」と答えたり、「“ふつう”なら、これくらいわかるよね」と言ったりと生活のいろいろな場面で用いられています。

 でも、“ふつう”って一体なんでしょう。

 私は、かつて障害児入所施設や児童相談所で勤務していました。ちょうど社会福祉制度の改革過渡期で、サービスの利用が行政の権限である「措置」から、利用者が必要なサービスを選ぶ「契約」へと変わりゆく頃でした。当時の私は、日々の生活習慣が自立していない障害のある人が企業等で“ふつう”の人と一緒に働くことは困難で、福祉的就労といわれる作業所での就労が最適だと考えていました。そして、安心安全な環境が用意された作業所に通い続けられることが本人の幸せであると家族にも伝えていました。今思えば、穴があったら入りたいくらい恥ずかしい限りです。

 そんな私が自らの反省もふまえて、近年取り組んでいるのが障害のある人の就労支援です。実際に、福祉や教育から雇用への移行を重視した政策も展開されています。しかし、障害のある人が働くことの意義が十分認識されないまま就労支援が独り歩きすることには危うさを感じます。ときに、企業や支援者側から不適切な行動に対して、「〇〇ができないと企業で働けない」と本人だけに解決の努力や行動の変容を求める支援が中心となることがあります。たとえば、発達障害は生まれつきの特性ですが、診断が出たから「障害者」になるのでなく、個の特性を活かせる環境があればそれは強みになり、困難が生じやすい環境であれば特性が「障害」になるのです。つまり、取り巻く環境によって彼らの姿は変化する、この考え方を「社会モデル」といいます。私たちは、社会の側に障害を生み出す構造がないか考えたうえで、必要があれば環境を調整する、あるいは、新しい仕組みをつくることを論点とすべきでしょう。

 皆さんは、多数の人ができることができれば“ふつう”で、反対に多数の人ができることができなければ自分は“ふつうではない”と思ったことはありませんか?日本は和を重んじることから、海外と比べて同調化圧力が強い国だといわれます。過度に“ふつう”に見える努力をしなくても「私は少し人とは違っています。でも大丈夫なんです」と、誰もが自信をもって言える社会になればいいな…と考えています。