グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



ホーム >  リレーエッセイ >  学生時代の旅行

学生時代の旅行


※職位や内容は投稿時のものです

2023年4月14日更新

 英語科目を担当していて、外国語学習には地道な日々の努力が欠かせない、と考える。しかし、時にはその日常性に変化と刺激を与えてみるのも悪くない。その一つの方法に、旅行があるかもしれない。

 私は元々、旅行にはほとんど関心がなかったが、大学4年の2月に、英語修行を兼ねて、オーストラリアへ2週間の一人旅に出かけた。出発前は不安な気持ちでいっぱいだったが、すぐに目の前で起こる非日常的な出来事の連続に圧倒されつつも、魅了され、体内に蓄積されていたエネルギーが、次第に湧き出てくるような、不思議な感覚になった。

 シドニー、アリス・スプリングス、ウルル(巨大な一枚岩)、メルボルンと順調に旅行は進み、タスマニア島を巡って、メルボルンに戻る飛行機の予約確認を公衆電話で行う段になった。ここで「初めてのトラブル」に遭遇した。

 「N for Norman, O for Oliver, ...」と私の名前の綴りを、係員が何度も確認して、私は「その通りだ」と繰り返し伝えるが、私の予約記録が一向に見つからない。有料の長距離通話のため、どんどん硬貨が電話機のスロットに消えていくが、あいにくの日曜日で、周りの店はすべて閉まっていて、道行く人もほとんどいないため、両替もなかなかできない。何度も電話を切って、両替できる人を探し、電話をかけ直した結果、航空会社は予約エラーを認めて、私の席は無事確保された。今となってはよくあるトラブルだったと思うが、シドニーから日本に帰る飛行機に間に合わなくなることを危惧して、無我夢中で問題解決に取り組んでいた。

 数日後、メルボルンから首都のキャンベラに出て、早朝のバスターミナルで、シドニーに向かうバスを待っていた。大きなバックパック(リュクサック)の中にカメラをしまい、自分を含めて2人しかいなかった待合室に荷物を置いて、トイレに行った。

 トイレから戻ると、バックパックはあったが、カメラはいくら探してもない。荷物を放置した自分の判断ミスだったとはいえ、トラブルは続くものだ。盗難だった。カメラをあきらめてシドニーに向かうか、しばし迷ったが、これも経験だと思い、(記憶は定かではないが)バスの予約をキャンセルして、警察に向かった(と思われる)。

 担当の警察官が丁寧に対応してくれる中で、私は盗難の状況とカメラの特徴(フィルムカメラで、タスマニアで撮った写真のフィルムが入っていた)についての質問に答えながら、自分の言葉で用紙に詳細を記入した。事はスムーズに進み、盗難証明書のような書類を発行してもらった。カメラが戻ることはなかったが、帰国後、旅行保険を申請したところ、カメラの代金が、全額補償された。

 タスマニア島の美しい風景や訪問した知人の家族と一緒に撮った写真は失われたが、旅行を通じて、英語を使って考え、行動し、トラブル対応というやや特殊なジャンルにおいても、貴重な経験を得ることができた。それと同時に、困難を独力で切り抜けたことは、小さな「成功体験」となった。

 その後、様々な旅行を国内外で経験したが、私にとって旅行は、多様性に触れる生きた教材であり、時に難題とそれを克服する活力を与えてくれる存在でもある。留学による海外滞在も経験したが、物理的な移動を伴う旅行には、留学とは一味違う魅力がある。

 とは言え、長引くコロナ禍のため、私自身、しばらく旅行に出かけていない。円安が続き、航空券が高騰する現在は、海外旅行・訪問の前に、国内旅行に再デビューしてみようか、と考えている。私と同じように、海外旅行は少々ハードルが高いと感じる人は、身近な地域でも、2人組やグループの行動でも、自転車や徒歩の移動でも良いので、ふだん見ていない「世界」を探索してみてはいかがだろうか。