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実践的・体験的な商業教育


※職位や内容は投稿時のものです

2022年12月15日更新

 高校における商業教育の目標は、次の通り学習指導要領商業編(平成30年告示)に示されています。つまり「商業の見方・考え方を働かせ、実践的・体験的な学習活動を行うことなどを通して、ビジネスを通じ、地域産業をはじめ経済社会の健全で持続的な発展を担う職業人として必要な資質・能力を次の通り育成することを目指す。」と記されています。さらに具体的な資質・能力として、「商業の各分野について、体系的・形態的に理解するとともに、関連する技術を身に付けるようにする。ビジネスに関する課題を発見し、職業人に求められる倫理観を踏まえ合理的かつ創造的に解決する力を養う。職業人として必要な人間性を育み、よりよい社会の構築を目指して自ら学び、ビジネスの創造と発展に主体的かつ共同的に取り組む態度を養う。」とされています。

 目標に記されている「実践的・体験的な学習を行うことなどを通して」とは、将来職業人としての必要な資質・能力を育成するために、計画的に実験・実習を行い、その中で様々な体験をすることでビジネスに関する具体的な課題の解決策を考えることができます。

 そのための科目として、総合的科目の「課題研究」、「総合実践」、マーケティング分野の「商品開発と流通」、「観光ビジネス」などの科目があり、これらの学習を通して実践的・体験的な活動が行われています。

 全国の商業高校が行っている実践的・体験的活動の具体的な例の一部を挙げると、鹿児島県指宿市立指宿商業高校では、ベリー、カスタードバニラの香りをブレンドした紅茶を制作し、「森の中に住んでいる子グマが紅茶屋さんをしていてホワイトデーに、ホワイトチョコレートを使用して作った紅茶」をイメージしており、ミルクティーにするとより美味しくいただけます。と制作した商品を紹介しています。(ハイスクールコマース2021青空市より抜粋)

 また、千葉県船橋市立船橋高校商業科では、市商オリジナルブランドであるピースイーツ第7弾の商品で、尾道のいちじくと瀬戸内のレモンを使用したマドレーヌを制作しています。(2021学校HPより抜粋)

 販売実習では、北海道北見商業高校では、「販売実習会は、接客時における接遇やマナーの体得、商品の仕入れから販売・在庫管理・会計処理などのビジネス活動における一連の流れを体験することができる。」と学校HPで紹介しています。

 静岡県では、県立袋井商業高校の今回で20回を数える学校デパート「袋商ショップ」が12月に開催されます。県立静岡商業高校が静岡市葵区の呉服町商店街で、マーケティング科目を選択履習している生徒が販売実習を行っています。(学校HPより)

 このように実践的・体験的な学習活動を行うことにより、将来の職業人として必要な資質・能力、特に他者とのコミュニケーションを図り共同する力を育み、ビジネスに対する心構えを育成することができます。

 科目「課題研究」は、「調査、研究、実験」、「作品制作」、「産業現場等における実習」、「職業資格の取得」の4つの指導項目からなり、学校の方針や生徒による選択等で行われています。また、科目「課題研究」を学習した後、課題研究発表会などの学習成果を発表する機会があり、生徒は発表用のレジュメやパネルの作成など計画的かつ意欲的に取り組んでいます。

 商業高校といえば、資格が取得できると考えるのが一般的ですが、資格を取るための学習では、本来の商業教育が目指すものとは程遠いものがあります。資格というものは商業高校で学習した専門的な知識を修得した結果であり、客観的な目安でしかありません。

 例年11月頃に、静岡県教委から高校の定員の発表がありますが、商業関係の高校の学級数が逓減している状況が見られます。中学生にとって商業高校を魅力的な学校にするためには、「資格が取れる」だけでは中々難しい現状であることは事実です。

 我が国の商業教育は、1899年(明治32年)「実業学校令」が公布され、それに基づき「商業学校規程」が制定され、商業教育はここから始まったといっても過言ではありません。全国的に見れば、創立100年を超える商業高校は数多く存在します。静岡県では、三商と呼ばれる東部の県立沼津商業高校、中部の県立静岡商業高校、西部の県立浜松商業高校(いずれも明治32年開校)が優に120年を超えています。その歴史によって育まれた商業高校の独自性が、さらに実践的・体験的学習に軸足を置くのか、従来通りの検定中心主義の学習に終始するのか、様々な視点から十分に考えることが今まさに問われている時期だと思います。