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外国人労働者の受け入れ拡大について ~高度成長期を教訓にして~


教授 近藤尚武 (国際経済学、アジア経済)

 少子高齢化と人口減少が進む日本では、近年、介護業界や建設業、飲食業などにおいて深刻な「人手不足」が生じており、その解決のために外国人労働者を導入するべきだという声が産業界を中心に高まっている。この声を受けて政府は、「高度外国人材受入環境の整備」「外国人技能実習制度の抜本的な見直し」「国家戦略特区における外国人材の活用」と次々と外国人労働者の受け入れ拡大政策を進めている。「高度外国人材」は別として、他の二つは、単純労働分野における外国人労働者が対象である。日本人の若年層の人口が減少しており、労働条件の悪い職種は日本人が来てくれないので、まだ経済格差のあるアジアの周辺諸国から安い賃金でも働いてくれる外国人労働者をもっとたくさん受け入れようということである。

 戦後の高度成長期の労働力不足に対して、欧州諸国は外国人労働者を導入することによって乗り切ろうとしたが、日本は外国人労働者に頼らずに、技術革新による生産性の上昇によって人手不足を切り抜けた。日本のロボット産業が高度成長期に急速に普及し、80年代には世界一のロボット大国になったのも、高度成長期の人手不足に対応するためという背景があったからである。このような経験があるからこそ、外国人労働者の受け入れ論争が活発化していたバブル絶頂期のころ、当時の日本政府は、低賃金の外国人労働者の流入によって、企業が労働節約型の技術革新に積極的に取り組まなくなり、本来市場から撤退すべき低生産性部門を残存させることによって日本の産業構造の高度化が遅れるという理由で、「安易な外国人労働者の依存は経済発展の妨げになる」と政府報告書ではっきり謳っているのである。

 今、「人手不足」が高度成長期よりもっと深刻なのであろうか?有効求人倍率と完全失業率を調べてみた。2015年の有効求人倍率は、1.20倍である。それに対して、人手不足が深刻だった高度成長期後半の有効求人倍率をみると、1970年が1.61倍、1971年が1.29倍、1972年が1.51倍、1973年が2.14倍である。ちなみにバブルのピーク時の1991年は、2.07倍である。完全失業率に関しては、2015年が3.4%である。高度成長後半期は、1970年が1.1%、1971年が1.2%、1972年が1.4%、1973年が1.3%である。バブルのピーク時の1991年は、2.1%である。ようするに、数字で見れば、高度成長期の「人手不足」の方が、現在よりもはるかに深刻だったということである。しかし高度成長期の日本は、外国人労働者に頼らず、技術革新や日本人労働者に対する人材開発の努力によって労働生産性を高め、人手不足を乗り切ったのである。その結果、日本は「技術大国」「質の高い勤勉な労働者」という名声を得ることとなった。また労働生産性の上昇によって賃金も大幅に上昇し、消費が拡大し国内需要が増大するという経済成長の好循環が生み出されていったのである。

 高度成長期の教訓から、今日の「人手不足」にどのように対応すべきであろうか?劣悪な労働環境を放置して、安い賃金で働いてくれる外国人を大量に導入し、日本人との賃金引下げ競争を促し、「コスト競争力」を武器にする途上国型経済になっていくのか、新しい労働節約型技術を導入し、人材を開発し、知恵と工夫によって高付加価値を産みだす豊かな先進国型経済を目指すのか、今、賢明な選択が問われている。