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スポーツのもつアンビバレンシー


教授 永山庸男(経営学・マーケティング)

 サッカー日本代表の監督解任で囁かれる2018年ロシア・ワールドカップ・アジア予選への懸念。そう,昨年終わったばかりのサッカー・ワールドカップは次の大会に向けて,日本が参加する同2次予選が,この6月から始まります。正式名称は,2018FIFAワールドカップ・ロシア大会アジア予選。ご存知のFIFA(Fédération Internationale de Football Association,国際サッカー連盟)が仕切る単独スポーツとしては世界最大イベントです。南米のブラジルの次は,新興工業国家となったロシア,そしてロシアの次はいよいよオイルマネー溢れるカタール。政治的要素と経済的要素を巧みに処方した戦略を展開させています。

 このオリンピックを凌駕する世界的イベントをその手中に収めているFIFAは,ある意味世界最大の「マーケティング企業」で,スポーツとエンターテイメントを巧みに融合させ,地球上のあらゆる国,地域から莫大な「カネ」を吸い上げています。昨年のブラジル大会の前の開催であったアフリカ大陸初の開催となった南アフリカ大会も,世界市場化のなかで残されていたアフリカの市場化を大いに推進しました。治安等の不安が大きかった南アフリカ開催を決定したのも,FIFAのアフリカ市場創造というマーケティングの思惑と邪推してしまうほどです。世界中に放映される試合模様も巨額の放映権を巧みにコントロールし,各会場で画面に映し出されるグローバル企業からの広告収入,各代表が身にまとうユニフォームやウェアを提供する企業群は,もはやスポーツウェア企業と言うよりアスリートアパレルメーカーの世界戦略となって展開していきます。これらの戦略が一過性でないことがワールドカップ・ビジネスのすごい点です。「祭りの後」という状態は,この領域では存在しません。ワールドカップは,4年に1度夏季オリンピックの中間年に開催され,出場権をかけた予選は,2年以上かけて行われます。世界で最初に始まるアジア予選は,FIFAを中心に世界中の企業の思惑が渦巻いて展開されるプロローグとなります。

 しかしながら,ワールドカップで最もビジネスを展開させているのは選手自身であるという点もこのイベントの特徴です。自らの商品価値を高め,より高給のとれるクラブチームに自らをアピールする場でもあるからです。ユニフォームの国旗を背負った名誉と自らの商品価値提示という人的資源管理の基本的インセンティヴがフルに発揮されることになります。

 グローバル・マーケティングを前提として成り立つプロスポーツはサッカー,テニス,ゴルフぐらいしかありません。テニスとゴルフは地球規模とは言えないかもしれません。比較的世界規模のスポーツとして位置づけられるバスケットは,アメリカのプロリーグが主体で,いわばローカルです。野球やアイスホッケーも一部の国に限られます。アメリカのプロスポーツ市場は規模が大きく,ビジネスとしては魅力的な市場を形成していて,世界中から人材が集中しますが,地球規模の市場と比較するとグローカル(グローバルとローカルの融合)と言えるでしょう。また,ボクシングはプロスポーツとして底堅い人気があり,ビジネス的にも結構しっかりとした市場を形成していますが,いろいろな団体が利権を求めて乱立し,FIFAのようなマーケティングを展開することができません。

 世界的なスポーツとなるには,多くの国・地域で行われるスポーツとして広くその人口規模を拡大しなければなりません。そのためにオリンピック種目となることは重要ですが,プロスポーツとしては成立しないスポーツが多く,逆にプロスポーツにならないからオリンピックという場でその存在意義を示すことが重要となるのでしょう。しかしながら,そこにもビジネスはお構いなく入り込んでいきます。陸上競技しかり,アルペンスキーやジャンプしかりです。

 このような視点でスポーツを診ると,そのスポーツに全身全霊を注いでいる選手,そうした選手の姿に大きな声援を送り,時として感動の涙の流す人々が創り出すスポーツの側面とビジネスというその世界で生活をしていく人たちに不可欠な側面とは,スポーツがもつまさにアンビバレンシーと言えましょう。スポーツの競いのなかに,そこに絡まる様々な経営の諸要素。その諸要素をちょっと考えながら試合をTV観戦するのも大学の重要な授業かもしれません。