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ホーム >  応用心理学研究センター >  通信56 女性の活躍を推進すると、男性が活躍したくなる!?

通信56 女性の活躍を推進すると、男性が活躍したくなる!?


経営学部教授 太田さつき
ohta@ssu.ac.jp
 日本のジェンダーギャップ指数が153ヵ国121位という低水準にあることは、昨今よく話題に上がります。日本では管理職に占める女性の割合が他国と比べて極めて低い水準にあることも、このジェンダーギャップ指数に関係しています。政府は2020年までに管理職女性を30%以上にすると目標を立てましたが、2021年を迎えた今、目標の半分にようやく到達したというのが日本の現状です。
女性の管理職が増えるためには、女性が昇進意欲をもつことも大切と考えて行った研究が「働く女性のキャリア意識:就業の継続と昇進意欲に影響する要因」です。本学の2019年度特別研究支援経費を受けて行いました。得られた知見の一部を以下に紹介します。

男性より低い女性の昇進意欲
20代の大卒総合職男女を対象としたWEB調査回答を集計したところ、女性の昇進意欲は男性よりも低いことが確認されました。最終的に就きたい職位を尋ねたところ、男性の31%が役員までと最も多く回答し、女性の36%が昇進したくないと最も多く回答していました。

図 最終的に就きたい職位の男女差(太田(2020)1, 2を基に作成)

やりがいと自信で昇進意欲は高まる?
何が昇進意欲と関係するのかについて分析しました。その結果、やりがいのある職務を行い、自信に繋がる職務経験をし、能力に自信をもつ人ほど、高い職位に就きたいと考えていました。この傾向は男女共通にみられました1。経験や自信は、男女ともに重要といえます。

女性にとって能力への自信は重要
就きたい職位が大学時代と働く現在でどう変化したか、その変化と何が関係するのか分析しました。その結果、能力に自信のある女性ほど大学時代よりも就職後の現在、高い職位に就きたいと考えていることが分かりました1,2。能力を伸ばして自信をつけることで、女性の昇進意欲が高まると解釈できます。
男性の場合は、勤務先が女性活躍推進策(ポジティブ・アクション)を行っていると感じるほど、高い職位に就きたい方向に変化することが分かりました1, 2。この結果は女性を活躍させるつもりの施策が、男性の活躍を引き出す可能性を示唆しています。多様な従業員の活躍を応援する組織では、上位の職位に昇進して活躍したいという意欲が引き出される可能性があります。
女性の役職者数や勤続年数など、女性活躍のデータを公表する企業が増えています。活躍したい就職活動生は、女子学生に限らず男子学生も企業の女性活躍データをチェックするといいかもしれません。

力を育む経験の重要性
今回の研究に先駆けて行った女子大学生対象の調査からは、アルバイトや授業でのグループワークなどの経験と能力の伸びが、昇進意欲を高めることが示唆されました3, 4。2018年度の特別研究支援経費を受けて行った「女子大学生のキャリア選択:就業の継続と昇進意欲を導く要因」での見解です。大学在学中の経験や能力の伸びが、昇進したいという意欲を引き出すと解釈しています。就職前の大学生も働く社会人と同様、経験で昇進意欲が高まると考えられます。

大学の役割と私の研究、そして教育
昇進意欲を高めるには、やりがいがあって自信に繋がる職務経験をすることが重要と考えました。組織の人的資源管理策の重要性も示唆されました。活躍を実現できる仕事や就職先を選べるよう、学生を支援するのは大学の役割です。この役割を心に刻んで研究を発展させたいという思いが強まりました。活躍したい若者が、就職先の状況や職務内容で意欲を削がれてしまったら社会にとって損失です。
大学生活を通して伸びた能力が、昇進意欲を高める可能性も見出しました。能力の伸びを実感してもらえるよう、教育に力を注ぎたいという思いも強まりました。

※文中右肩の数値は以下の研究成果からの引用。右肩の数値は各成果の番号と対応している。

2019年度「働く女性のキャリア意識:就業の継続と昇進意欲に影響する要因」の研究成果
1. 太田さつき(2020) なぜ女性の昇進意欲は男性より低いのか?: 若年総合職を対象とした一考察 日本心理学会第84回大会
2. 太田さつき他(2020) 大卒若年総合職の昇進意欲: 性差の基礎的分析 環境と経営 26(1), 95-108.

2018年度「女子大学生のキャリア選択:就業の継続と昇進意欲を導く要因」の研究成果
3. 太田さつき(2019) 女子大学生の昇進意欲を高めるもの 産業・組織心理学会第35回大会
4. 太田さつき他(2019) 女子大学生のキャリア選択に関する一考察: キャリア教育への示唆 環境と経営 25(1), 161-179.

応用心理学研究センター通信特集と応用心理学研究センターの終了

 本学2019年度特別研究支援経費を受けて行われた応用心理学研究センター員の研究が、2020年7月から5回にわたって「応用心理学研究センター通信特集」として紹介されました。いずれも研究基盤の高度化や教育の質の向上のために行われた研究です。
 心理学は実証科学ですので、実験や調査によって研究を行います。1回の実験や調査で分かることは限られているので、ご紹介した研究も実証的な検討を今後も重ねるはずです。続けることで、研究基盤の高度化や教育の質の向上に資する知見が得られるからです。
 残念ながら応用心理学研究センターは2021年3月末をもって終わりを迎えるので、今後の研究の行方を応用心理学研究センター通信でお伝えすることはできません。でも、特別研究支援経費を受けた研究は、必ず本学紀要で成果報告する決まりになっていますので、よかったら本学リポジトリ(https://shizusan.repo.nii.ac.jp/)をご覧ください。既に紀要に掲載されている論文もありますし、現在掲載されていないものも間もなく掲載されます。
 応用心理学研究センターは今年度で閉じますが、私たちの研究は今後も続きます。論文や書籍、講演など何らかの形でお目にかけることができるよう、研究に取り組んでいく所存です。これまで通信の記事をお読み頂き、ありがとうございました。

応用心理学研究センター
センター長 太田さつき