グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



ホーム >  応用心理学研究センター >  通信53 「大学生アスリートの進路選択」

通信53 「大学生アスリートの進路選択」


静岡産業大学経営学部 准教授 高城佳那
Email : kana-takagi@ssu.ac.jp

 新型コロナウイルス感染症による感染拡大の影響を受け、東京オリンピック2020が延期になりました。また、全国高等学校野球選手権大会をはじめとするほとんどの競技大会が中止になり、競技者やそれに携わる人たちに大きな影響を与えました。影響と一言で言うのは簡単ですが、それは多種多様で計り知れないものがあります。私の担当する「スポーツ心理学」の授業の中で「新型コロナウイルス感染症とスポーツ」というテーマでグループワークを行った際も、部活やトレーニングができない期間や競技大会の中止による心理的影響についてのみならず、感染症と今後のスポーツのあり方について等の議論が活発に行われコロナ禍が学生に及ぼしている影響を改めて実感しました。
 本学には来年2021年4月にスポーツ科学部が新たに開設されます。日本スポーツ振興センターによると、2010年以降の国際大会に出場した日本代表選手の大学進学率は72.9%で多くのアスリートが大学に進学しています。大学はトップアスリート育成の中心的役割を担う機関であり、今後ますますその重要性が高まっていくと考えられます。その中で、大学生アスリートへの様々なケアが必要になってきますが、私は卒業後の進路について着目し昨年度、「大学生アスリートの自己調整学習能力と進路選択における自己効力感との関係」という研究テーマで特別研究支援経費を獲得しました。
 この研究は、大学に所属しながら競技スポーツに取り組む大学生アスリートの進路選択に関する特徴を、一般学生と比較することにより明らかにしようとしたもので、大学生アスリートの進路選択においてどのような支援が求められているのか検討することを目的としています。まだ分析の途中ですが、大学生アスリートは一般学生と比べて、「進路選択に対する結果期待」(参考項目;仕事について色々勉強すれば、よりよい職業選択が出来るだろう、自分の興味や能力を理解すれば、よりよい職業選択ができるだろう等)について有意に低い、職業選択の結果に期待を持っていないということがわかりました。その原因として、大学生アスリートは学生生活の多くの時間をトレーニングなどの競技活動に費やしているために競技活動以外に関心が向きにくいことが考えられます。実際の調査でも、大学生アスリートの大学生活は、競技活動が勉強やプライベートの時間を上回っています。そのような状況の中で活動している学生アスリートを大学で育成していく上で、競技能力のみにとどまらず、学生個人の自己効力感を高め卒業後の進路選択に対する意識や知識の向上を目指した教育が必要となってきます。
 また感染症と共に生きる新しい生活様式を過ごしていく中で、今まで考えられなかった心理的影響を想定していかなくてはなりません。現在私は新型コロナウイルス感染症の感染拡大が、大学生アスリートの心身にどのような影響を与えたかを検討する新しい研究に着手しています。

参考文献
安達智子(2001) 大学生の進路発達過程-社会・認知的進路理論からの検討-.教育心理学研究,49,326-336.
古谷駿・粟木一博(2015) デュアルキャリアに関する学生アスリートの意識と大学における支援の在り方についての研究.仙台大学大学院スポーツ科学研究科修士論文集,16,125-131.
日本スポーツ振興センター(2014)「デュアルキャリアに関する調査研究」報告書