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通信41 『最近のVR技術の浸透とVR体験が心に及ぼす作用について』


静岡産業大学経営学部 准教授 葉口英子
haguchi@ssu.ac.jp
 以前書いたリレーエッセイ『VR技術の本格的な到来について〜PSVRを事例として〜』(https://www.ssu.ac.jp/relay-essay/170110/)では、2016年11月当時のVR事情について触れました。それから1年経た現在、VR(ヴァーチャル・リアリティ)技術はさらに身近なものとなっています。

 現在、スマートフォンやPCに対応したさまざまなタイプのVR専用ゴーグルやヘッドセットが販売され、手軽にVR体験を楽しめるようになりました。スマホ用VRゴーグルで安価な機器は1000円台から購入できるのも、VR技術がより身近になった要因の一つでしょう。もちろんコンテンツとなる、いわゆる「360°動画」も多く配信されています。これらの動画は、スマートフォンのアプリからのダウンロードで入手できますし、PCでもVR対応動画であれば見ることができます。例えば、NHKのVRコンテンツ専用のwebサイト『NHK VR』(http://www.nhk.or.jp/vr/)では、ニュースや番組を360°動画で体感できる仕様になっています。

 ちなみに、私は最近PSVRを入手し、いろいろなゲームや動画を体験しました。例えば、ミュージックビデオで、目の前で演奏するアーティストは目が合うとにっこり微笑んだりします。ライブ会場は想像以上の臨場感と迫力があります。バイオ・ハザードは怖すぎて断念しました。私にとってVR体験は非常に興味深い、新鮮な体験でした。

 さて、今回は、この新しいVR技術に関連したユニークな実験を紹介したいと思います。スタンフォード大学のジェレミー・ベイレンソン教授がおこなった実験 です。

 まず、被験者には2種類のVR体験が用意されます。1つは、街中を上空からスーパーマンのように自由に飛び、動き回れるVR体験です。もう一方は、ヘリコプターの乗客として上空の窓越しから街を眺めるVR体験です。双方の映像の途中に、地上で困っている子どもを見かけるシーンがあります。前者は、上空から駆けつけ、子どもを助ける行動がとれます。一方、後者は自由に動けないため、駆けつける、あるいは助ける行動がとれません。

 さて、実験はそれぞれのVR体験後から始まります。被験者に説明をしていた研究スタッフがわざとペンを床に落とします。この時、被験者がペンを拾うのを手助けしようと動き始めるまでの時間を計測します。すると、ヴァーチャルな世界で存分に「スーパーマン(=スーパーヒーロー)」体験をした人とヘリコプター体験とでは反応が違いました。

 結果は、前者のスーパーヒーロー体験をした30人の平均は、2.23秒でした。しかも手伝わない人は1人もいませんでした。一方、ヘリコプター体験をした30人の平均は6.45秒で、6人は、全く手伝おうとしませんでした。教授は、実験の結果からVRによって自らがスーパーヒーロー体験をした人たちは、積極的に人助けをするようになったとし、ヴァーチャルな世界での経験が現実世界での心の動きに作用したと結論づけました。

 このようにヴァーチャルな世界での体験や経験が現実世界に生きる私たちの心にどのような作用を及ぼすかは、未知の問題が山積しています。新しく登場したVR技術について、今後の研究テーマとしてより一層注視したいと考えています。


参考文献

『あなたの脳を改造する!?超・映像体験(バーチャルリアリティ)』クローズアップ現代+,NHK総合,2016年5月31日10:00放送