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通信35「嘘を科学する:子どもはいつ嘘を認識できるようになるのか」


静岡産業大学 教授 菊野春雄

子どもは何歳から嘘(Deception)をつくようになるのでしょうか。嘘という言葉から、騙すとか詐欺というネガティブな印象強いかもしれません。本来、嘘は人間など動物にとっては重要な意味を持つ行動です。たとえば、親鳥は自分の子どもが捕まりそうになると、親鳥は弱ったふりをして、自分の小鳥を助けようとします。また、カメレオンや虫は、敵に気づかれないように周りの環境に溶け込むようにカモフラージュをします。このように嘘は生物に生得的に備わった防御反応のひとつです。人間においても、この嘘の行動は基本的な行動のひとつで、自分を防御する重要な行動です。そして、この嘘について、多くの研究が行われています。今回は、子どもの嘘についての研究を紹介します。

子どもの嘘についての研究は、以下のようなストーリーを子ども(3歳児から6歳児)に提示して行います。森の中に青色と赤色の家があります。そこへ、「サル」が現れます。サルは子どもに、オオカミに追いかけられていること、逃げるので助けてほしいこと、「赤色の家に隠れる」ことを伝えます。その後、オオカミが現れ、子どもにサルの居場所を尋ねます。

このような場面で、5歳児はオオカミに「サルの居場所を知らない」とか、「青色の家」を指さしたりします。5歳児は、サルのために嘘をついて助けようとします。6歳児も同じ行動をします。

しかし、4歳児は、5歳児とは異なる行動をします。オオカミにサルの居場所を尋ねられると、4歳児は「サルは赤色の家にいる」とか、「赤色の家」を指さしてしまいます。4歳児は、サルを助けるために嘘をうまく付けません。3歳児も同じように嘘が付けません。
なぜ4歳以下の子どもは嘘が付けないのでしょうか。これについては、「心の理論(Theory of Mind」という能力が、関係していると考えられています。心の理論とは、相手の気持ちを推測する能力で、4から5歳ごろに急激に発達するといわれています。

子どもが嘘をつくためには、「①相手の気持ちを推測する力」と「②相手の気持ちを修正する力」の2つが必要です。上述の例にあるサルが赤色の家に隠れ、幼児がオオカミに嘘をつく場合について考えてみましょう。まず、①幼児は、「オオカミ」は、「サルが赤い家か青い家のどちらかに隠れている」という気持ちを推測します。そして、②幼児は、「オオカミ」が「サルが赤い家に隠れている」と気持ちを修正します。この2つのプロセスを十分に遂行できたときに、嘘という行動が成立します。

5歳以上になると、心の理論を十分に獲得できているので、嘘をつくということが可能なになります。しかし、4歳以下の子どもは、心の理論が十分に発達していないことや、うまく使えないことがあり、上手に嘘が付けないようです。このように、子どものうそを調べることで、子どもの発達の一つが見えてきます。