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通信24「メンタルトレーニング」の可能性


静岡産業大学 准教授 藤田依久子

日本人は勤勉な国民なので、「働き過ぎる傾向がある」と、これまで長い間考えられてきました。しかし、現在の日本人の労働時間はドイツやフランスには及ばないものの、アメリカと同程度であり、日本人だけが他の先進国と比較して特に働き過ぎているわけではありません。
日本人の自殺者は、1998年から急激に増加し、2003年には過去最高の34,400人に達しました(2004年には32,325人と少し少なくなっていますが)。これは交通事故で死亡する人の、実に3倍程度にもなります。女性より男性の自殺者の方が圧倒的に多く、とりわけ、40歳以上の男性の自殺者が目立ちます。

これまでは、「オーバーワークが精神的な疲労を蓄積させ、これが自殺の原因であろう」と考えられてきましたが、確実に日本人の労働時間は短縮される傾向があり、働き過ぎが自殺の原因であるとは考えられません。
現在の職場環境を見てみると、コンピュータに長時間向き合っていることが多く、このことから生じるトラブルやストレス、機械に囲まれて働くことのストレスといった、労働の内容についてもみていかなければならないでしょう。

こうした中で、いずれにしても現在日本の働く人の疲労感が蓄積していることは、確かなようです。ここで一つの仮説を立ててみました。「労働時間が少なくなった為、休日や休みの時間が増えた。そのことが自殺の増加につながったのではないか」という仮説です。 日本人の多くは休日の過ごし方に問題があるのではないかという事です。この仮説を裏付けるように、月曜日の自殺者は他の曜日に比べて最も多く、週末になるにつれて減少していきます。それ以外にも、工場で生産された製品は、月曜日に生産されたものに不良品が多いことが知られています。 つまり、多くの日本人は休日や休みの時間を、本当の意味で心身を癒すことに使っていないのではないか、と考えられるのです。

メンタルトレーニングというとスポーツの試合の前に、精神を「集中」させるために行われているものであると一般には考えられています。
スポーツで自分の持っている実力をここ一番という時に発揮するためには、「活力にあふれていながらリラックスしている状態」を作り出さなければなりません。活力とリラックスという、この相反するとも思える不可分な要素をいかにうまく調和させるかが、スポーツでは問題となります。ここには「心」の問題がかかわっていて、単に技術や体力をつけるための練習を積んだだけでは習得することはできません。しかし、よく考えてみるとこうした能力は、ビジネスマンが大事なプレゼンテーションをする際にも必要な能力です。ここ一番で最高のパフォーマンスを発揮することが必要でしょう。なにもスポーツに限ったことではありません。

また、メンタルトレーニングには、ポジティブ思考のトレーニングや「機嫌をよくする」トレーニングといったものもあります。ポジティブ思考で「機嫌がいい」、というのはスポーツマンには必要なことではありますが、スポーツマンでなくても必要なことです。たとえば受験生をイメージしていただいてもよいのですが、人が勉強をするときには、機嫌がよくないと新しい知識やアイディアは頭に入らないのです。人間は、悩みがあったり心配事があったりする時には勉強はできません。
まあ、勉強に限らずどんな仕事でもポジティブ思考で「機嫌よく」取り組むことが重要で、これは、その人の人生に成功をもたらすでしょう。

最初に、多くの日本人は本当の意味で休日や休みの時間を有効に使っていないのではないか、と言いました。このことは実は大きな意味で、メンタルトレーニングを知らないことからくることなのです。つまり、メンタルトレーニングというのは、スポーツをする人達だけのものではありません。休日や休みの時間をどう過ごすかといったことも含まれてくるのです。そう考えると人生設計の問題に発展していきます。
先ほど、ポジティブ思考や「機嫌のよいこと」は、人生に成功をもたらすと言いました。このように、メンタルトレーニングは、単なるスポーツの試合前の「集中」のトレーニングではないのです。人の人生に関係する問題であると言ってよいと思います。

本学の心理経営学科の「心理学」は、ビジネスの場面で役に立つ理論を教えるとか、場面、場面における人間の心理について解説するとか、瞑想法やメンタルトレーニング等の具体的な手法を教えるといったことも行いますが、ただそれだけではなく、人間のよき生き方(自分の能力や適性を社会の中で、思う存分発揮することができるような生き方)を目指しているのです。
しっかりとした人生設計を立てる。もちろんその中には仕事だけではなく「ゆとり」や「あそび」の部分も含まれます。今日のようなストレスフルな社会では、そうした「ゆとり」や「あそび」のマネージメントも必要であり、単に仕事に直接関係する技術だけを習得すればよいという時代ではないのです。

また今、機械ではなく人間でないとできないことに対して注目が集まっています。本学の「心理学」を学んだ人はそうした時代の要請に十分答えることができるだろうと信じています。