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通信12「複雑系と人的交流」


静岡産業大学 非常勤講師 裵英洙

心理学は“人と人の相互作用”を学ぶ学問ともいえます。そこでは“複雑系”が働いているかもしれません。
複雑系とは、「無数の構成要素から成立する一つの集団で、各要素が他の要素とたえず相互作用を行い、全体として部分の動きの総和以上の何らかの独自の振る舞いを示すもの」とされています。一言で言えば、「系」つまり「システム」のことです。単一の事象ではなく、複数の事象が循環的因果律にて支配されている“非”線形の世界でもあるのです。個々の反応は決定論的で単純な規則に従っていても、全体としてはその部分の和には還元できないような振る舞いを示す現象を指します。また、複雑系は外部に開かれたシステムであり、外部刺激の否定と静的平衡状態はシステムの死に直結します。例えば、生物、政治、経済、温暖化問題、人口問題などが代表例です。有名な比喩として、「北京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起こる」があります。

人が関わる世界はまさに“複雑系”です。そこは革新性を宿しつつ安定性を維持する場所であり、闘争と変革の場でもあるのです。そこに近づきすぎると散逸と分散の危険に見舞われ、逆に離れすぎると硬直と画一化に捉われてしまうような絶妙な均衡点です。これをカオスのエッジ(=混沌の縁)と呼びます。現代社会に生きる我々にとっては、いかにその場で良く長く生存するか、が鍵となります。

複雑系の考え方は、日常生活や仕事の場、遊びの場、恋愛の場など、人が関わるシーンの全てが当てはまるかもしれません。大きくみて、“社会”という人的交流の場においては、参加者(=エージェント、構成要素)の個々の力量以上の、“何か”が生まれるとその交流は複雑系として成立します。成立に導き長く続くためには、意識的にまたは無意識的に“カオスのエッジ”を創る必要があるのです。人的交流におけるカオスのエッジの創る方法として、異分子との共働の場からの創発を喚起するために絶対解がない共通のテーマを多角的視点から提供することが最も簡単と言われています。もちろん、参加するエージェントの意識の高さがその総和を高くする可能性はあります。

心理学を学ぶ者として、人と人の作用や行為から生まれる事象の理解に複雑系の視点を組み込んでみると、また新しい視点が獲得されるかもしれません。複雑系はまだまだ不明な点が多いものです。心理学的な方向からのアプローチも興味深いものではないでしょうか?