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認知言語学者ジョージ・レイコフ博士との出会い


教授 須部宗生(日英表現比較 小学校英語教育)

(ジョージ・レイコフ博士と筆者、カリフォルニア大学バークレー校にて)

 私は、今年の3月の休暇に何年かぶりに渡米し、カリフォルニア大学バークレー校で世界的に著名な認知言語学者のジョージ・レイコフ博士に、非公式的ではあったが、会うことができた。が、そのきっかけを作ってくれたのは、私の以前の同僚である、元静岡産業大学情報学部にいた、現在は大東文化大学准教授の梅本孝氏である。梅本氏はカルフォルニア大学バークレー校大学院のレイコフ博士の下で、1年間の研究休暇、サバティカルで認知言語学を研究中だった。彼が借りている部屋の大家さんであるアメリカ人夫婦の好意もあり滞在できた。

 私は、個人的にかねてより認知言語学には興味を抱き、大した研究成果はあげられていないものの、音象徴の実験調査をしている。音象徴と言えば、レイコフ氏だけでなく当大学にはオハラ氏が教鞭をとっていることを知っていた。それであわよくば二人に会見できるのではないかと考えたのである。とは言ってはみたものの、特に公的な資格があるわけでもない、日本の田舎の一大学教授に過ぎない私などに会ってくれるのは正直、半信半疑でいた。しかしオハラ博士は日程的に不可能であったものの、梅本氏の直接の指導教官であるレイコフ博士の快諾は得られ会うことができた。

 レイコフ博士は御年が74歳ほどになるようだが、会見してみると見た目もエネルギーにあふれる、豪快に笑う明朗活発な老人であった。現在も研究のみならず、カリフォルニア大学の学部及び大学院での講義を精力的にこなし、世界各国での講演活動を行っているようだ。滞在中、ゼミの講義にもオブザーバーとして出席を許可していただいたが、ゼミの初日にも、前日アムステルダムでの公演から帰国したばかりだとのことであった。

 いずれにしても、彼の講義で最も印象に残ったのは、機関銃のようにまくしたてる、彼の講義とその後に行われる学生を巻き込んでのブレーンストーミング、そして最後に行われる活発な質疑応答とディスカッションであった。レイコフ氏はひとしきり説明を終えると学生に向かい、Is that cool? (どうだい、どんなもんだい?)と言うのが口癖であった。これに対し学生たちは一斉に、It’s very cool! と答えた。博士は実にユーモアにあふれ学生からの絶大な信頼を得ていることが見て取れた。また、議論の中で、博士の指摘を受け、論理が整理できていないまま質問したことを博士に詫びる中国人学生に対し、「懸命に考えている君の態度はまことに学究的で、尊敬に値する。」と博士はその学生を讃えた。その博士の一瞬の態度に学者の理想の姿を垣間見た思いでもあった。

 講義の最終日に、謝意を伝えるために博士の研究室に挨拶に行った。その際、私はもうすぐ定年を迎え自分の研究活動も先細りである、と弱音をはく私に向かい、「何を言っているのか。君はまだ若い。研究をするならこれからだよ。よければ定年後にアメリカに来て勉強と研究をやったらどうだ。」とのありがたい言葉を博士からいただいた。私は最近、視力の衰えなどで、長年参加してきた辞書編集の仕事から手を引いた。今後、具体的にどのような研究活動をしていくか、はっきりしない自分であった。しかし、今回のレイコフ博士との出会いによって、少なくとも今後も、知的好奇心を強く持って、自分独自のテーマを研究していきたいという新たな決意ができたのだった。