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子どもは単純か


教授 菊野春雄 (発達心理学、認知心理学)

 私は、子どもの認知や発達について研究を行っています。研究を重ねれば重ねるほど、子どもの可能性の素晴らしさや可能性を発見できます。時折、「そんなことは幼児でも考える」などと書かれた文章や発言に遭遇します。しかし、実際の子どもは、大人が考えるほど単純に思考するのではなく、結構複雑に考えていることに遭遇します。

 これは、ある園の5歳児クラスでの出来事です。遠足前日の話です。5歳児クラスの園児が、明日の遠足を楽しみにしていました。そして、先生が園児に遠足について話をしていました。園児は嬉しそうに熱心に先生の話を聞き入っていました。遠足の目的地の動物園、お弁当、おやつなど楽しい話でいっぱいです。園児も大喜びです。

 しかし、先生は遠足の話をしながら少し憂鬱になっていました。明日の天気がどうなるかという不安があったからです。テレビで見た天気予報では、明日の雨の確率がかなり高く、遠足が中止になるかもしれませんでした。明日雨になれば、楽しみにしていた遠足が中止になります。子どもの笑顔を見ると余計に憂鬱になりました。楽しみにしている子どもが悲しむかもしれないと思い多少気分が重かったのです。そこで、先生は思い切って、明日の天気について子どもに話すことにしました。

 「明日は雨になりそうです。そうなれば、遠足も中止になります。残念だけどね」と、遠足の場合は中止になる旨を話しました。予想していた通り、今まで元気だった子どもは、急に元気がなくなり、クラスの雰囲気も暗くなりました。「雨になっても大丈夫」と先生は、子どもを元気づけようと必死にフォローしました。遠足が中止になっても、クラスでお弁当を食べられること、別の日に動物園に行けることなどを話しました。しかし、子どもたちはますます元気がなくなりました。

 そんな時、一人の子どもA君が手を挙げました。A君は日頃は無口で、おとなしく、静かな雰囲気の子どもさんでした。そのA君が突然話し出したのに、先生はうれしく、また驚きました。A君は、小声で「明日は晴れるよ。絶対に」と言いだしました。クラスのみんなは大喜びで、クラスは再び遠足ムードになりました。そこで、先生は慌ててA君に「なぜ明日が晴れると思ったの」と質問しました。すると、A君は小声ながら以下のような説明をしだしました。

 「明日は遠足である(明日=遠足)」。

 そして、「遠足は晴れた日に行く(遠足=晴れ)」である。

 だから、「明日は晴れ(∴明日=晴れ)」である。

 もちろん、説明の仕方は大人ほど精緻ではありませんが、いわゆる三段論法を使って説明をしていました。説明を終わったとき、日頃目立たないA君は、その日はクラスのヒーローになっていました。

 もちろん、この論法は、間違っています。しかし、先生はA君が発言してくれたことを讃えました。そして、明日は雨かもしれない旨も丁寧に話しました。すると、A君や他の子どもたちは「先生。なんで違うの」と質問してきました。しかし、大人である先生は即座に答えができず、戸惑ってしまいました。もしも、子どもの考え方が単純であれば、我々大人は容易に答えを返すことができるはずです。子どもは、大人が考えるほど単純ではなく、複雑に物事を考えているようです。

 私も何度も実験や調査を行っていますが、そのたびに感じることは子どもの未知の可能性です。子どもは複雑にかつ多層的に考えています。ちなみに、先ほどの話ですが、その後先生は園児に丁寧に話をしていました。遠足当日はA君が予想したように天気は晴れで、子どもも先生も動物園を楽しく過ごすことができました。