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ガザ戦争を考える


教授 森戸幸次 (国際関係・地域研究論(中東・アラブ地域)、時事アラビア語)

 中東でまた新たな戦争が勃発した。世界は今、この戦争の意味を真剣に問い始めている。今夏、イスラエル人とパレスチナ人の少年が相次いで殺害された事件を引き金に、イスラエル軍とパレスチナのイスラム原理主義組織ハマスとの間で本格的な武力衝突に発展した。主戦場のガザ地区では最近5年間で双方が戦火を交えるのはこれで3度目であり、1948年のイスラエル建国に伴う第1次中東戦争以来の「第7次中東戦争」と名付けられる。

 戦争が長期化し、ガザの戦場から連日悲惨な光景に接し、日本をはじめ世界は、「なぜユダヤ人とアラブ人はいまだにパレスチナで戦っているのか」(英誌エコノミスト)と、あらためて問いかける声が広がっている。世界中で最も根が深く解決が21世紀に持ち越された<中東百年紛争>の根源にあるパレスチナ問題。歴史的、民族的、宗教的、思想的、文化的な側面を備えたこのパレスチナ紛争の本質を理解することは、解決が難しいのと同様に、これまた私たち日本人にとっても至難の業になっている。

 ガザ戦争のバランスシ−ト
 7月8日に勃発したガザ戦争は、50日後の8月26日、エジプトによる懸命な仲介工作を経てようやく無期限の休戦で合意したが、双方に多大な犠牲と未曾有の破壊をもたらした。イスラエル側は7月8日以降、5262カ所を空爆、これに対し、ハマス側はロケット弾4562発を発射、このうち3641発がイスラエル領内に着弾したが、うち735発がイスラエルの防空システム「アイアンド−ム」で迎撃された。この戦争による犠牲者は、世界保健機構(WHO)によると、ガザの人口180万人のうちパレスチナ人の死者は2100人以上、うち大半が民間人で子供およそ500人、負傷者は1万1000人、避難民約60万人、家屋破壊1万7000軒。イスラエル側は、イスラエル兵64人が戦闘で命を落としたが、これは主にハマスの自爆攻撃によるものだった。民間人は6人(ユダヤ人、アラブ人、タイ人)を含めると、イスラエル側に総勢70人の犠牲者が出たが、双方の犠牲者だけを単純に比較すると、パレスチナ側約2100人に対してイスラエル側70人となり、ハマス側にとっては、幾次にわたる過去の中東戦争でアラブ諸国が一度も達成できなかった大きな戦果を獲得したことになり、「パレスチナ人の抵抗がもたらした勝利」(ハマスのハニヤ元首相)と位置付けている。

 ハマス側
 今回のガザ戦争を通してハマス側は、武装兵力1万5千ないし2万人がガザ防衛のために地下壕を使って侵攻イスラエル軍と戦う体勢を準備、長期に及ぶ消耗戦に持ち込んでガザ封鎖の解除や検問所の再開などを受け入れる停戦を勝ち取ることを、政治目標に掲げた。しかしながら、ハマス側は、ガザ戦争が長期・消耗戦化するにつれて、イスラエルによるガザ封鎖の解除から、パレスチな問題を国際社会の世論の動向に訴える、パレスチナ(西岸)占領解放戦略へと、軍事から政治決着へシフト。ハマス側が8月26日、ガザ封鎖の緩和などエジプトの2段階仲介案を受け入れたのは、イスラエルに力による軍事対決の道を迫る戦略から、ガザの統治と長期的な政治決着に道を開くための新たな政治戦略への転換に舵を切った、と考えられる。「われわれは、過去数年間にわたってイスラエルによるパレスチナ占領地を解放するため準備を進めて来た。今回の戦争は、単にガザの境界線にとどまらず、エルサレムとパレスチナの全面解放が目標だった」(ハニヤ元首相)。

 イスラエル側
 これに対し、イスラエル側は、ガザを軍事要塞化したハマスの非武装化を達成できないと、地下トンネルの越境攻撃、ロケット弾の越境攻撃を終わらせてイスラエル南部の安全を確保できず、2006年夏にレバノンのイスラム教シ−ア派原理主義組織ヒズボラが、軍事力を温存したままイスラエルとの間で停戦した第2次レバノン戦争(第6次中東戦争)の二の舞になりかねない。これは、イスラエルにとって、今回のガザ戦争以前への現状維持に他ならず、「ハマスのテロ組織に大きな打撃を与えた。今後はガザ境界線を管理してハマスの再武装化を阻止し、イスラエル市民に安全を確保できる」(ネタニヤフ首相)かどうかは不透明であり、双方による新たな一触即発の「消耗戦」が延々と続くことになる。

 双方はエジプトの調停案に合意し、即時停戦とガザ検問所の再開と人道援助・復興計画、ガザ沖合漁場の11キロ拡大を受け入れたが、停戦発効後1カ月後にカイロで開催される今後の間接交渉を通して(1)ガザの港と空港の建設問題、(2)パレスチナ人の釈放問題、(3)イスラエル兵の遺体返還問題—などが協議される予定だ。

 パレスチナ問題 — 秋の国連の舞台へ
 8月23日、仲介役のシシ・エジプト大統領と会談したパレスチナ自治政府のアッバス議長は「われわれは、もはやイスラエルとの間でこれからどうなるのか分からない和平交渉を2度と行わない。われわれは、国連に対し、1967年の第3次中東戦争以前の境界線に基づくパレスチナ国家の樹立をめざす詳細な計画を提出する」考えを明らかにした。パレスチナ側としては、国連を通して東エルサレムを首都とするパレスチナ国家を、1967年の第3次中東戦争以前の西岸・ガザに樹立するため、イスラエル側に占領の終結期限を設定するよう求める内容の安保理決議案の作成に向けてエジプト,サウジアラビアなどアラブ各国との協議に入った。この決議案が安保理で拒否されたら、国際刑事裁判所(ICC)に提訴する構えという。

 50日間に及んだ今夏のガザ戦争の休戦入りを経て、パレスチナ問題は、9月以降に本格化する秋の国連外交の場に移った。