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「今の20代はお金がなくても幸せ」なのか?


准教授 葉口英子(広告論、音楽学、メディア論)

 私たちは生きていくために必要な欲求を充たしながら、より便利で快適な生活を送ろうと日々多くのモノやサービスを消費し、享受している。こうした消費は個人や世帯の数だけ、千差万別のスタイルが存在するといってよい。なぜなら消費スタイルには、個人や世帯の収入が関与するだけでなく、それぞれの属性、住環境、趣味趣向、ライフスタイル、消費に対する価値観の違いなどさまざまな要因が反映されるからだ。ただし、それらの消費スタイルを社会全体で捉えたとき、人びとがどのような消費志向を抱いていたのか、どのような消費スタイルが主流であったのか、各時代で一定の傾向が見受けられる。

 例えば、戦後、復興から高度経済成長期には「大量消費」「大都市志向」「アメリカ志向」といった志向がみられ、三種の神器(テレビ・冷蔵庫・洗濯機)、3C(カラーテレビ・車・クーラー)が大量に生産・消費された。続いて1970年代半ばから1990年初頭のバブル崩壊まで、「個性化」「多様化」「差別化」「ブランド・高級志向」といった志向がみられ、家電や車は家族での共有から個人所有へと変化し、消費のあり方は量から質への転換がみられた。

 さて、現在の消費志向はいかなる様相を呈しているのだろうか。例えばその一つの手がかりとして今の若者が抱く消費に対する価値観を知るのも有効だといえよう。

 『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)の著者古市氏によれば「今の二十代はお金がなくても幸せだ」ということらしい。デフレが進み、そこそこの品質のモノをそこそこの価格で買える今の日本は、大金のない若者にとっても暮らしやすい社会であり、実際、内閣府「国民生活に関する世論調査」によると、1970、80、90年代の二十代では「生活に満足している」と答えたのが5割程度だったのに対し、2005年には約7割が「満足」と答えているという。

 また今の若者の消費概念には、「都心部で車を買うのは意味がない」「外食でなく自炊すればよい」「ブランドものを買うのはナンセンス」という傾向がみられる一方、仲間とのつながりやコミュニケーションを求めるための通信費は惜しまない。他にも生涯未婚のままシェアハウスで暮らすのもよい、という新しい価値観も出現しているようだ。

 こうした従来の若者にはみられなかった消費に対する‘保守的’な価値観は、非正規雇用者や生涯未婚者の増加といった問題にも加え、階層社会化が日本で進行し、国力の衰退を招くのではないか、という批判もある。

 私が担当する消費者行動論では、学生に消費に対する価値観やお金と幸福との関係に関する意見を聞く機会があるのだが、先述した古市氏の資料を提示すると「共感する」という意見が多く見受けられる。まさに現在この「共感」が消費志向のキーワードであり、近年の消費の価値観は「個人から社会へ」「シェア」へと移行しつつある、という説もある。果たして今の若者の消費価値が「個人から社会へ」「シェア」の傾向があるのだろうか。(学生の意見を参照すると、その傾向はなさそうだ、というのが現時点での私の見解だけれども…。)いずれにせよ、現在進行中の消費の様相はのちに検証され明らかになるだろう。

 このように講義を通じて、自分の生きた時代との違いを感慨深く思ったり、新しい価値観の遭遇に感心することも多く、今の若者の実像を知り、その本音に触れることで、刻々と変化する時代や社会の諸相を実感できるのも教員冥利の一つである。

参照著書:『第四の消費』三浦展 2012 朝日新書、『絶望の国の幸福な若者たち』古市憲寿 2011 講談社