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「温暖化のBlack Swan」?


特任教授 吉岡庸光(企業経営と環境リスク、環境マネジメントシステム)

 今年の夏は、「これまでに経験したことのないXXX」とか「測候所開設後最大のYYY」「統計を取り始めて以来のZZZ」など、世界各地の異常気象と多大な被害のニュースが伝えられることの多い年になりました。更に、先日も季節外れの巨大台風がフィリッピンを襲い不幸な結果を招いています。そしてメディアの多くはこれらの現象を“想定外”という言い古された表現で一様に報じています。

 数年前に、元ヘッジファンドの運用専門家であるナッシーム・ニコラス・テレブ(Nassim Nicholas Teleb)は、2009年出版の著書『ブラック・スワン(The Black Swan)』の中で、世界の各分野では、高度に進化した統計的手法を用いたリスク分析の技術や、積み上げられた過去の経験的知見などではほとんど予測できない出来事が突然発生すると述べています。著書の題名の「Black Swan」は、昔のヨーロッパ人にとっては、白鳥は白いものと決まっていましたが、後にオーストラリア大陸で「Black Swan」(生物学的には黒い白鳥)が発見され、当時の鳥類研究者だけでなく一般の人々の価値観にも大きなショックを与え、我々の予知能力の限界を示したことに由来しています。著者のテレブ氏は、膨大なデータ収集によるリスク分析と動向予想で投資判断を行うヘッジファンドの専門家で、この氏の考え方が後に「Black Swan理論」と呼ばれるようになりました。また、この理論では、Black Swan現象はひとたび発生すると巨大なインパクト(主としてマイナスの)を招来し、また、それらの原因については後になってもっともらしい説明が付くと指摘しています。

 アメリカで発生した「9.11」、世界の金融市場を危機に追い込んだ「リーマンショック」、「福島第一原発事故」、そして冒頭で述べた数々の異常気象現象は全てBlack Swan現象と考えることも出来ます。

 さて、今週からポーランドのワルシャワで気候変動枠組み条約(AKA.温暖化防止条約)の第19回の締約国会議が開催されていますが今一つ盛り上がり感に欠けています。それは、いわゆる総論(温暖化防止)には賛成するが各論(負担義務)には反対という環境外交の構図が相変わらず支配していることと、膨大な過去の地球気象のデータとスーパーコンピュターを駆使して作成された「IPCC気候変動予測モデル」に対する絶対的な信頼感への温度差が背景にあります。我が国が先日発表した「05年比3.8%削減」という温室効果ガス削減目標もその「予測モデル」からは考えられないほど楽観的な数値となっています。このように、温室効果ガスの国際的削減策(Mitigation)が遅々として進まず、一方では、深く構造的に変化しつつある地球気象をいつまでも“想定外”、と片付けている我々の気づかぬところで、これまでの異常気象とは全く異質の予想もしなかった新しい次元の「温暖化のBlack Swan」の雛が突然の出番を待っているかも知れません。