グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



ホーム >  リレーエッセイ >  「選択と集中」

 

「選択と集中」


特任教授 山﨑克雄(国際経営、経営戦略)

 私は経営戦略論という授業の中で「Product Portfolio Management(PPM・製品ポートフォリオマネジメント)」を講義しています。

 これは多事業を抱える大企業において、各種事業を市場占有率と成長性により分析することにより、継続して伸ばす製品を選択して、経営資源を集中するということに役立ちます。すなわち経営実務では一般的である「選択と集中」の一手法ですが、広く人間行動に応用できると考えています。

 私の場合30年間勤務した企業をやめ、学生時代の夢であった大学教授をめざしましたが、専門を大学時代に学んだ経済学か、卒業後の実務経験が活かせる経営学にするかの岐路に立ちました。この時は2つの学問領域に関する現有知識量と経験活用度により判断を下しました。

 また、中学校で同クラスのピアニストの中村紘子さんの場合、ピアノは3歳から習われたようですが、初舞台となったのは6歳時の《フィガロの結婚》の独唱であったとのこと。さらに大宅壮一ノンフィクション賞受賞となった『チャイコフスキー・コンクール』をはじめ、著書を5冊以上出版されていることから推察すると、文筆力も幼少期よりあったに違いないと思われます。多分、ピアノに選択・集中したのは小学校の低学年ではと推察しています。ピアノのトーク&リサイタルで音楽は若い時に才能が開くという大脳生理学の話をされておられますが、まさにご自身でその理論を実証しておられます。彼女の場合、選択してからの集中度ははんぱではなく、1日10時間の練習を40日間継続した時期もあったようです。今日でも日本を代表するピアニストとして活躍する彼女の練習量は5~6時間/日とのことです。

 運動選手となると、意思決定は13歳から18歳位のようです。通常はこの時期に2つ以上の親しんだスポーツより、一つに絞り込むと急激に上達し、大学で更にその荒削りの能力を技術面や精神面から磨くことになります。経営学部のスポーツ関連では、スポーツ経営、教育、保育の3コースがあり、そのような高校生が門を叩くことになります。当学部には充実した特待生制度もあり、3つの本格的な体育館、芝生の2面のサッカー場や野球場などが整備されています。

 大多数の高校生は将来、ビジネス社会で活躍することを目標に当校を受験しますが、企業社会の事業活動や仕事の進め方などほとんど知らないように思います。優良企業、市町村、協会などが講義を担当する冠講座からは、これらのことを多面的に学べます。当大学はこの寄付講座数に関しては日本一を誇り、15年以上の歴史があります。

 入学後の2年間で自分の意志で科目を選択し吸収するプロセスの中で、それ以前の知識と融合して、進むべき職種、業務、業界に関するいくつかの選択肢が浮上することになります。3年生から能力の適性と企業の成長性から分析して、「選択と集中」をすることによって、一皮むけた自分を認識することになりますが、これが「大化け教育」の第一歩でしょう。大学時代に大化けした学生が企業社会に進み、自己研鑽を重ねることによって、30歳位までに「本化け」(本当に化けるの意)することになるでしょう。本化けした卒業生が私の研究室を訪ねてくれるときは教師冥利に尽きる瞬間です。

 前述の本化けに至るプロセスの年令には例外もあるので、人生の目標をあきらめる必要はないでしょう。ポーランドのパデレフスキーは、ピアノ好きで12歳の時に音楽学校に入りましたが、「きみはピアニストになどなれっこない」と言われ続けました。しかし、ピアニストの夢は捨てず、音楽教師をしながら研鑽して、27歳の時に初舞台を踏みました。その後は華やかな表舞台で活躍し、政界に転じて59歳の時に初代ポーランド共和国の首相になる(注)という本化けを二度経験しています。私は50歳で修士号、59歳で博士号をとり、本化けした自分をやっと実感できた次第です。

注:中村紘子『ピアニストという蛮族がいる』 中公文庫, 2009, pp208-218