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静岡の人はよくスポーツをするけれど、スポーツにあまりお金を使わない?


講師 大西孝之(スポーツマネジメント、スポーツマーケティング)

 先日、といっても半年以上前のことですが、ゼミ生が統計をもとに面白い発表を行いました。いわく、静岡市と浜松市のスポーツに関連する支出は全国平均と比べると少なく、一方で静岡県のスポーツ実施率は全国平均を上回ると。統計の詳細をみると標本数が少なく信頼に足るものではなかったのですが、非常に興味深い内容でした。是非このデータを糸口として卒業研究に取り組んでもらいたかったのですが、本人の興味関心の違いから、残念ながらかないませんでした。

 学問領域としてのスポーツマネジメント、特にスポーツマーケティングでは、一部の例外を除くスポーツに参与する人々、つまり、スポーツをしたり、見たり、読んだり、聞いたり、着たりなどする人々を「スポーツ消費者」として捉え、その消費行動を理解する試みがなされています。スポーツ消費者を明確に定義すると、「楽しみや他のベネフィットを得ることを目的として運動やスポーツに参加したり、それに関する情報を得るために、時間やお金、個人的なエネルギーを投資する人々」(原田,1998,p.151)となります。それでは、スポーツ消費者としての静岡の人々の特徴を、特に「するスポーツ」に焦点を当て、公表されている各種の統計を参考に考えてみたいと思います。果たして、ゼミ生の発表は、正しいと言えるものでしょうか。

【静岡のスポーツ関連消費】
 まず、スポーツに関連する消費です。都道府県別の1か月の支出項目が「全国消費実態調査」で明らかとなります。「するスポーツ」に関連する支出項目には、(1)スポーツ用具、(2)スポーツ用品、(3)スポーツ月謝料金、(4)ゴルフプレー料金、(5)スポーツクラブ使用料、(6)他のスポーツ施設使用料があります。この6項目の合計について、平成21年の静岡県の数字をみると、2人以上の世帯では2,862円であり、支出額全体に占める割合は0.94%でした。この「するスポーツ」に関連する支出項目の支出額全体に占める割合でランキングすると、静岡県は28位でした。全国平均が1.10%であることを考えると、ゼミ生の指摘の通り、静岡の人のスポーツに関連する消費は日本の中で決して盛んとは言えない結果でした。

【静岡のスポーツ実施率】
 次に、スポーツの実施率について見てみたいと思います。スポーツ実施率については、様々な統計が公表されていますが、今回はまず「平成23年社会生活基本調査」を参考にします。社会生活基本調査では、スポーツ行動者率として1年間に少なくとも1回スポーツをした人の割合がわかります。この数字を見てみると静岡県は63.3%であり(全国平均は63.0%)、ランキングでは13位でした。別の統計をみてみると、笹川スポーツ財団のスポーツライフ・データ(2000―2008)では、静岡県の週1回以上の運動・スポーツ実施率は58.1%(全国平均は52.8%)で全国5位、また週2回以上・1回30分以上・主観的運動強度「ややきつい」以上の運動・スポーツ実施率は17.5%(16.0%)で13位でした。以上のことから、こちらもゼミ生の指摘の通り、静岡でスポーツをしている割合は日本の中でも多いと言える結果でした。

 スポーツ関連消費とスポーツ実施率の統計から、静岡の人はよくスポーツをするけど、スポーツにお金をあまり使わないという結果が導き出されます。今回はより妥当な統計から導き出された結果ですが、ゼミ生が発表した通りの結果となりました。先に示した笹川スポーツ財団のスポーツライフ・データ(2000―2008)では、スポーツクラブへの加入率も公表されています。この数字では、静岡県は17.5%(全国平均19.8%)で32位となります。この統計からも、静岡の人は「するスポーツ」にあまりお金を使わないという考えの支持が得られます。それでは、なぜ静岡の人はするスポーツにお金を使わないのでしょうか。静岡ではスポーツに関連する公共サービスが充実しているから、自らお金を使うことなくスポーツを楽しむことができていると言えるかもしれません。こちらも統計を参考に見てみましょう。

【静岡の公共スポーツサービス】
 公共スポーツサービスに関連する統計として「平成20年度社会教育調査」を参考に、社会体育施設数と社会体育施設におけるスポーツ教室などの事業実施件数を見てみましょう。まず社会体育施設数を見てみると、静岡県内には1,312施設あり、全国で11番目の施設数となります。しかしながら、人口千人当たりの施設数に換算すると0.35施設となり35位と大きく下落してしまいます。また、これらの社会体育施設においてスポーツ教室などの事業が行われた件数では4,518件と全国10位ですが、こちらも千人当たりの事業件数に換算すると1.19件となり29位と下落します。これらの数字だけでは公共スポーツサービス全体についての十分な検討を行えませんが、静岡の公共スポーツサービスが全国でも顕著に優れているという傾向は見て取れません。つまり、静岡のスポーツに関連する公共サービスは充実しており、静岡の人はお金を使うことなくスポーツを楽しむことができているという考えは支持されない結果となります。

 ここまで目を通していただいた方には誠に申し訳ございませんが、現在のところ、私には静岡の人はよくスポーツをするけれど、スポーツにあまりお金を使わない理由を明確にお示しすることができません。しかしながら、静岡におけるスポーツ実施率の高さとそれに見合わないスポーツに関連する消費の低さの溝を埋めることができるアイデアがあれば、大きなビジネスチャンスとなりまし、付加価値を生み出す可能性があります。紐解くカギは、スポーツサービスの経験価値に関することかもしれませんし、もっと単純なことかもしれません。この問題に対する解答については、今後の研究課題とさせていただきたいと思います。

【参考資料・文献】
原田宗彦(1998)スポーツファンの消費行動:人はなぜスポーツ消費に熱中するのか.杉本厚夫(編)スポーツファンの社会学.世界思想社:東京,pp.149-170.
文部科学省(2010)平成20年度社会教育調査.
笹川スポーツ財団都道府県のスポーツライフ・データ(2000―2008).Retrieved March 13, 2013, from http://www.ssf.or.jp/research/sldata/data_prefecture.htm
l総務省(2009)2008年人口推計.
総務省(2010)平成21年全国消費実態調査.
総務省(2012)平成23年社会生活基本調査.