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「ニューノース」の行方


特任教授 吉岡 庸光(企業経営と環境リスク、環境マネジメントシステム)

 近年顕著になっている異常気象のためか、今年の夏もことのほか猛暑日が多かった。エアコンを使わず、身体に悪いといわれる冷たい物を食べないで、少しでも涼しく過ごしたいと思い、寒さを感じさせてくれそうな、その名もずばり「Cold」(Bill Streever、Back, Bay Books: New York 2009)と、北極圏の将来について書かれた、ローレンス・C・スミス「2050年の世界地図」(小林由香利訳、NHK出版、2012年)を読んだ。前者は、アラスカをベースに活躍する低温科学者が、北極圏の厳しい自然環境における生態系(人間を含む)の環境適応の素晴らしさや、食料不足や凍傷と低体温症状に苦しみながら北極点到達を目指したR.アムンゼンや悲劇のフランクリン隊など多くの冒険家の足跡や挿話について書いたもので、ちょっとした寒でも苦手の私には低温がもたらす凄まじい現象の描写だけで充分に冷房効果はあった。

 一方、後者は、アメリカのUCLAの地質学者が北極圏の未来についての「予言もの」で、現代の読者に、いろいろと考える事を迫ってくる。それは、ちょうど読み始めたころに、グリーンランドの氷床面積が過去最小になったとメディアが報じられ、北極圏地域での結氷面積の縮小(溶解速度の加速)が引き起こす地球規模のメガトレンドについて書かれた本書を読むものにとって、かなりの臨場感があった。すでに早くから、気候変動に関する国際調査機関は、もともと温暖化の影響は高緯度地域での影響が大きく、北極圏の海氷の溶解は進むと予想していたが、問題は、そのスピードの早さは予想をはるかに上回っていることである。本書の著者は、このような現象は厚い氷と厳しい気候風土によって近代文明から相手にされなかった北極圏に、資源開発、商業航海の新ルート、人口移動、生態系などの分野で、これまで考えられなかった大きな変化をもたらし「ニューノース」と呼ばれる新しい地政学的構図が生まれると予想している。特に、北極圏には天然ガスの確認埋蔵量は770兆立方フィートで、アメリカ、カナダ、メキシコ3国の合計埋蔵量の313兆立方フィートからしてその巨大さが理解できだろう。また、石油も未発見埋蔵量の約13%と推定されているが、環北極圏諸国はこれまで海洋領域が明確ではなく、場合によっては、「次の中東」になる可能性を指摘している。

 私は、人類がこれまでほとんど無制限に使ってきた化石燃料の結果として北極圏の氷が溶け出し、これから北極圏において未知の多く自然環境の破壊や地域社会の構造変化を引き起こしながら、またぞろ化石燃料をめぐって国際関係に新たな問題が起こりそうなことや、化石燃料への依存体質が今後も長期間にわたって続くことを想像し、その怒りと失望感で、折角、涼しくなりたかったのに、逆に“熱く”なってしまった。