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「子どもでも肥満になると内臓脂肪が溜まってメタボになる!」


准教授 小栗 和雄(運動生理学、身体組成学、健康科学)

 世界的に子どもの肥満が増えています。日本も例外ではなく、現在の子どもの肥満頻度12%は30年前(4%)の3倍であり、丸々と太った子どもを見かけることが多くなりました。このような状況を鑑み、05~11年度にかけて、文部科学省の科学研究費と静岡産業大学の研究活動助成金を基に、7~12歳の子ども112名(肥満児68名、標準児44名)を対象に、精密な体脂肪率、MRIによる内臓脂肪面積と四肢の筋肉面積、血液中の中性脂肪・LDLコレステロール(以下、LDL-C)・血糖値、血圧、動脈硬化の進行度、肥満関連遺伝子を検査してきました。本稿では、その分析結果を通して「子どもの肥満は何が悪いのか?」、そして「子どもの肥満は遺伝の影響が強いのか?」について考えてみます。

子どもが肥満と判定されるのは、性別・年齢・身長を勘案した適正体重に対して実際の体重が120%以上になる場合です。また、近年では大人だけでなく子どもでも内臓脂肪が溜まって高脂血症、高血糖、高血圧が合併するメタボリックシンドローム(以下、メタボ)になることがわかってきており、子ども用のメタボ基準値が存在します。本研究でも、肥満の子ども68名の中で8名(12%)が基準値を満たしてメタボと判定されました。そして、メタボの子どもの内臓脂肪をMRIで見てみると(図1左側)、年齢と身長が同等である標準の子ども(図1右側)に比べて内臓脂肪が著しく多いことがわかります。
 次に、メタボ8名(年齢9.9歳)、肥満60名(9.7歳)、標準44名(9.6歳)の子どもについて、メタボに関わる項目の平均値を比較してみると、全ての項目で標準より肥満、肥満よりメタボの方が著しい不良状態にあることがわかります(表1)。また、この3群間で動脈硬化の進展度を比較してみます。高感度CRPは血液中の炎症マーカーですが、中性脂肪が蓄積するなどして動脈が硬化すると動脈壁に炎症が起こるために高感度CRP濃度が高くなります。3群間で高感度CRP濃度を比較すると、図2のようにメタボの子どもは著しく濃度が高いことがわかり、動脈硬化が進展しているものと考えられます。

 小栗准教授 リレーエッセイ 表2小栗准教授 リレーエッセイ 図3 また、肥満やメタボは、食事や運動、生活習慣などの環境素因と遺伝素因が複合して生まれますが、子どもは生まれてからの生活時間が大人に比べて短いことから、その肥満には遺伝素因の影響が強いという仮説があります。そこで、本研究では約50種類ある肥満関連遺伝子の中で、エネルギー消費量を司るβ3アドレナリン受容体遺伝子(以下、β3AR遺伝子)を検査してみました。この遺伝子が変異している場合には、エネルギー消費量が少なくなることから、脂肪、特に内臓脂肪が溜まりやすくなることが大人では明らかになっています。β3AR遺伝子が変異した肥満の子ども22名と正常の肥満の子ども46名の間でメタボに関わる項目の平均値を比較した結果、β3AR遺伝子が変異した肥満の子どもは、体脂肪率に違いはないにも関わらず内臓脂肪面積、血圧、LDL-C、中性脂肪が著しく高いことがわかりました(表2)。このことは、β3AR遺伝子の変異が子どもの体脂肪の量というより分布に影響して内臓脂肪を増やし、高脂血症や高血圧を引き起こすことを示しています。
最後に、運動習慣のなさが肥満した子どもの筋肉量に及ぼす影響について検証してみます。運動習慣が全くない肥満児(年齢10歳、身長140cm、体脂肪率41%)と週4回サッカーを行う標準児(年齢10歳、身長141cm、体脂肪率15%)の上腕部と大腿部の筋肉面積を比較しました(図3)。その結果、運動習慣が全くない肥満児の上腕部と大腿部の筋肉面積は20~40%少ないことがわかりました。

 肥満した子どもは、食欲が旺盛で身長が大きく活発にみえる傾向があることから、これまで保護者や教育者は子どもの肥満をあまり問題視してこなかったように思います。しかし、上記のように子どもでも肥満になると内臓脂肪が溜まってメタボとなり、動脈硬化が進むこと、運動習慣がない肥満児では筋肉の発育が未熟であることは明らかのようです。さらには、子どもの時に肥満になると、その8割が大人になっても肥満のままであり、大人になってから心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患になりやすいことが指摘されています。運動や食事の習慣・嗜好についても、「3つ子の魂、100まで」と言われるように子どもの時に身についたものを大人になってから大きく変えることは簡単ではありません。そして、少子化が進む中で肥満した子どもが増えることは、子どもや大人の健康障害だけでなく、将来の労働力の低下、そして国の活力を低下させる可能性も懸念されます。

 以上のことから、子どもの肥満は、その形成に強く影響する肥満関連遺伝子にも注目しながら、早期に改善する、もしくは予防するべきものであると断言することができると思います。今後、保護者はもちろん、行政、企業、地域など子どもを取り囲む全ての人々が「国の宝」である子どもの健康を守るべく努めるべきであり、私はその一助となるよう子どもの健康に関する研究を続けていきたいと考えています。