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精神疲労を引き起こしやすい現代社会とストレス耐性


准教授 藤田依久子(社会心理学,臨床心理学)

 心身ともに疲れ果て、最終的に過労死や過労自殺に至るという痛ましい事件が最近、数多く報道されています。これらの事例をみると、生活の中に余裕とか、ゆとりといったものが無くなってしまっているように思われます。人間が健康で生きる為には、あそびや休養が必要です。

 かつての労働は肉体労働が中心だった為、休養というのは身体を休めることでした。ところが、近代化が進み、道具や機械が発達するにつれて、我々は、肉体労働からは、しだいに解放されるようになってきました。炊事や洗濯等の家事労働を考えてみても、明治時代と現代を比べると、人間にかかる負担はずいぶん軽減されてきました。その結果、我々は、かつてほどは肉体労働をしなくてもすむようになったのですが、そのかわり脳の一部だけを酷使する精神労働を強いられることが多くなってきました。

 一日中、コンピュータの画面と向き合って過ごす人々が増加しています。こうした仕事は、人間に慢性的な精神疲労を引き起こしやすいのです。デスクワーク以外の仕事、例えば外回りの営業等でも、精神的疲労が従来よりも増大しているのではないかと考えられます。今日では、営業マンのほとんどは携帯電話を持たされていて、会社から分単位で行動をチェックされています。このような営業マンに対する管理の強化は、精神疲労の増加につながっていくでしょう。職場の中だけでなく家庭の中においても、かつてに比べて精神疲労を引き起こしやすい状況が数多くあります。電話やインターネットの普及によって、今日では外出しなくても買い物等の用事を済ませることができるようになりました。とても便利になったのですが、その反面、社会とのつながりが薄れてきています。また、近代化によるさまざまな職業の発生に伴い、家族の生活パターンがばらばらで、家族で一緒に食事をするという風景がしだいに少なくなり、家庭内の会話が減少していると言われています。家に閉じこもる人々や会話のない家族の増加等、現代社会はコミュニケーションが希薄になる方向に向かって進んでいるのかもしれません。このことは精神疲労の増大につながると考えられます。かつて盛んに行われていた町内の寄り合いや、井戸端会議等は精神的ストレスの軽減には効果的だったようです。

 厄介なことに精神疲労は肉体疲労に比べて自覚しにくい為、気がついた時には、かなり重症になっているケースが多いのです。さらに厄介なことに精神疲労は肉体疲労のように、ただ身体を休めているだけでは解消できないのです。多くの人々は『休養』を、よりよい仕事をする為に必要なものである、と捉えています。こういう人たちは休日になると、とにかく身体を休める為に自宅でゆっくり過ごし身体を休めます。しかし、こうした方法は精神疲労に対してはそれほど効果がないのです。「子供がどこかに連れて行け、とうるさく言うから遊園地にでも行くか」「家族がたまには旅行に連れて行け、というから温泉にでも行くか」といった受動的なレジャーをする人も数多くいますが、これも精神疲労解消の効果は、あまり期待できません。かえって、肉体疲労が増えるだけという結果になるかもしれません。それでは、精神疲労を取る為にはどのようにすればよいのでしょうか。精神疲労解消には、自分がやりたいことをやって、楽しいという気分を味わうことが必要なのです。このように精神疲労に対する対策は、肉体疲労対策ほど単純ではなく厄介なのです。

 精神疲労を引き起こしやすい現代社会の中で生きていくためには、精神疲労を解消する自分なりの方法を見つけることが必要です。私は感性を大事にする生活を送ることが重要なのではないか、と思っています。個人個人によって楽しいと思うことが違うので、自分なりの方法を見つける必要があるのですが、多くの人に共通のこともあります。例えば、漫才や落語を聴いて笑うことは、精神の健康にも身体の健康にも効果があると言われています。医学の世界で、『笑い』の効果が着目されているそうです。人間は笑うと免疫力が高まり、癌等の病気になりにくいという報告があるのです。美しい音楽を聞いて感動する、すばらしい映画や舞台を観て感動する、心を打つ風景を見て感動する、これらのことは、その人のストレス耐性を強化します。

 私は心の健康の為に能動的な休養を取ることを心がけることにしています。私たちは、自分流のストレスマネージメントの方法を見つけ出し、上手にストレスをコントロールすることが必要です。そこに行くとリラックスできる場所だとか、居心地の良い場所を探し回る事は、決して無駄な事ではないでしょう。