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民主化への移行研究が急務 ―「アラブの春」第2幕の課題―


教授 森戸幸次 (国際関係・地域研究論(中東・アラブ地域)、時事アラビア語)

 2年半前、独裁体制を打倒した「エジプト民主革命」は、7月の政変を経て、中東・イスラム世界に地殻変動を引き起こしている「アラブの春」の第2幕に移った。2011年以来、チュニジア、エジプト、リビア、イエメンと相次いで民主革命が成就、政治的自由・民主主義・人権の欠如など長年アラブ世界を蝕んでいた「内部危機」の病理を克服した。「アラブの春」の第2幕では、政治形態の移行をめぐる今日の混迷状態から抜け出すため、国造りの方向と安定化に道筋をつける理論的な民主化への移行研究が急務になっている。

「民衆蜂起」それとも「軍事クーデター」?
 7月のエジプト政変の立役者として軍の動向に注目が集まり、各紙では「軍事クーデター」の性格付けが定着しているようだ。しかし、この実相はどうだろうか。エジプトの「民主革命」は、2011年1月25日に革命の聖地タハリール広場に結集した民衆が独裁打倒に立ち上がった記念日として「1月25日革命」と命名されているが、今回の政変劇は、この「エジプト民主革命」の第2幕を開いた「6月30日革命」だったといえる。

 1年前、ムルシ政権が発足した6月30日、タハリール広場を中心に全国各地でイスラム政権打倒を要求する数百万人規模の反政府デモを展開、この抗議運動の中核を担ったのが、女性を含む22歳ないし30歳の5人の若者グループ「タマッルド」(アラビア語で謀反の意味)の存在だった。この1年簡に停電や食料急騰など経済苦境が深刻化、鬱積する国民の不満を背景に大統領退陣と早期選挙を要求する署名運動を展開、失業と生活苦への怒りから人口8千3百万のうち2千2百万の署名を集めたとされる。事態収拾のため国軍が国民の民意にこたえるよう最後通告を突きつけたが、拒否され、結局、「1月25日革命」と同じように民主化への移行を担う革命の守護者として政治への軍事介入に踏み切った。
「自由」と「民主化」を標榜した「1月25日革命」の精神を受け継いだ「6月30日革命」という実相が浮かび上がった形だが、今回の政変劇の主役も、若者の民主化グループがきっかけをつくり、政権与党のイスラム主義勢力に野党勢力の世俗・リベラル派が対立する既成勢力同士の角逐を乗り越えて、第3の新興勢力として台頭した若者を中心とした中間・市民層による革命世代が再び革命の主導権を取り戻したといえる。国軍は政治への介入により、民主革命の継続を保証した形となった。

アラブ各国は現在、社会の分裂と国家の統合が問われる転換期を迎えているが、今後も「アラブの春」が推進する民主化のプロセスはもはや後戻りしないだろう。革命後の国造りで議会制民主主義を定着させる政治過程として、選挙—政党—議会を通じて、「政治的な正統性」を促進する仕組みが始まっているが、国家の統合に不可欠な国民意識の形成が、民族・宗派・部族が対立する伝統的な政治風土に阻害されているのが現状だ。しかし、中間・市民層を中心にした新しい革命世代の台頭は、民主政治や経済繁栄、社会公正を保障する市民社会=国民国家を建設する原動力になるだろう。
民衆蜂起=軍介入モデル
このような民主主義の移行過程がこれからどのような展開をたどるのか、今後を予測できるシナリオはあるのだろうか。

「アラブの春」で革命を成就させたアラブ各国の民主化への移行を整理すると、
(Ⅰ)民衆蜂起と国軍の介入が混合したチュニジア・エジプト型 
(Ⅱ)民衆蜂起と外国の軍事介入が混合したリビア型 
(Ⅲ)政治交渉主導によるイエメン型
に区分されるが、内戦が深刻化するシリアは、重大な人権侵害と新たな中東危機の拡大を食い止めるための、(Ⅳ)「人道介入」型になる可能性が高いだろう。

問われる「民主社会」の価値感
 7月のエジプト政変で打倒されたイスラム主義政権は、2012年6月の自由・民主選挙で選ばれ、国民から政治的な正統性を付与されており、武力を用いて権力を奪取することは非民主的であり、「民主革命」の精神に反する、という指摘が強い。だが、自由・民主的に選ばれた政権が自らの権力を強化し、少数意見を無視して複数主義を認めず、独裁的な政権運営に走り、国家を破綻に追い込んだ歴史的事例は、ナチス・ヒトラー政権や社会主義政権など数多い。民主=市民社会の基盤である思想/言論/行動/の自由を守ることが人間の尊厳という人類共通の普遍的な価値の最終的判断に迫られたら、力の行使という選択もやむを得ない、というのが筆者の立場だ。