静岡産業大学 総合研究所 客員研究員/元 静岡産業大学 情報学部教授 中村 羊一郎 山田長政をめぐるタイ国での博物館学実習 ■「博物館学」 本学の国際情報学部では2004年度から、 その後改組した情報学部では2005年度から、 「学芸員養成課程」及び「学校図書館司書教諭 課程」を開設し、「学芸員養成課程」では、学 芸員の資格を取得するために必要な「博物館概 論」「博物館学各論」「博物館実習」等の科目を設 置したが、2009年度末をもって両課程を廃止 している。 博物館学のゼミは、実践がモットーである。 静岡市の浅間神社門前町である宮ケ崎通り商 店街の一画には、江戸時代の初期にタイ国で 活躍した山田長政の屋敷跡(伝承)があり、長 政が浅間神社にタイで活躍した軍船の絵馬を 奉納した事実もある。それにちなんで地元で は毎年10月10日に山田長政祭というイベン トが行われている。地域おこしのケーススタ ディーとして格好の素材であるから、ゼミと して長政と商店街との関係を具体的に調査し てみようということになった。まず2007年 の祭りに希望者はタイの民族衣装を着て参加 し、来観者がどこから来たかなどのアンケー ト調査を行った。そして、どうせならタイに 行って現地の長政像を探ってみようというこ とになった。とくに、現地の中高生の間で山 田長政がどの程度知られているのか、長政は 歴史上の人物としてどんな位置づけがされて いるのかを確かめてみよう。諸準備の末、翌 年9月に海外調査が実現した。 山田長政はアユタヤの日本人町の頭領とし てタイ王室で大臣クラスの地位にまでのぼっ たが政争に巻き込まれ、僻遠の六昆(リゴー ル)の太守に任じられ、そこで毒殺された。 リゴールの中心都市、ナコンシータマラート には、長政の屋敷跡と井戸が残っている。訪 問した現地の中学・高校では折紙などを介し て生徒たちと交流することができた。そこか らバンコクまで飛び、ちょうど長政の映画を 撮影中の撮影所に行って、監督のノッポン氏 から映画撮影上の苦心などを伺うことができ た。映画の題名は「YAMADA The Samurai of Ayothaya」。長政を演じるのは大関正義 さんという現地で超人気の日本人俳優であ る。大関さんには残念ながら会えなかったが、 撮影隊一行はのちに静岡市を訪れて宮ケ崎の 人々と交歓している。アユタヤの日本人町、 メコン川航行、象乗り体験、そしてたまたま 政情不安の中で赤いシャツと黄色いシャツの 人々が激しく争う現場近くを通ったのも貴重 な体験であった。仮想空間にこもらずに、な にごとも現場に入り、自らの目で確かめるこ とが、とくに若い学生諸君にとって、どんな に大きな知的財産になるか、ゼミの意義をあ らためて感じるのである。 映画監督ノッポン氏にインタビュー (バンコク) 象乗り体験(アユタヤ)
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