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教育の力で地域再生は可能か


教授 浅羽 浩(教育課程、教科教育法、教員養成)
 2008年以降、人口減少社会に転じた我が国は、2065年には総人口がおよそ8800万人になると推計されています(国立社会保障・人口問題研究所公表:4月10日)。また、東京一極集中が進み、40道府県で人口減少が進んでいると報じられています。こうした中で、多くの自治体が若者流出を防ぐための様々な対応策を検討していますが、決定打を見出すことは困難な状況にあります。

 ところで、平成25年6月に閣議決定された、国の「第二期教育振興基本計画」では、4つの教育行政の基本的方向性の一つとして「絆づくりと活力のあるコミュニティ形成」が掲げられ、学校を核にした地域づくりへの取組が重要課題として提唱されています。 

 果たして教育の力で地域再生は可能でしょうか。このほど、磐田市社会教育委員会では、「コミュニティ・スクールと地域づくり・人づくり~社会教育への新たな視点~」をテーマとして、二年間にわたる協議結果を提言書としてまとめました。磐田市では市内のすべての小中学校(平成28年度:小学校22校、中学校10校)をコミュニティ・スクール(地域運営学校)に指定し、地域住民代表者で構成される学校運営協議会を設置しています。協議会には、学校の教育方針や教育計画を承認する権限が与えられています。

 磐田市では、同時に公民館の交流センター化が進められ、これまで公民館が担ってきた生涯学習機会の提供に加え、青少年の健全育成、福祉、防災など多様な役割を果たすことになりました。そして、交流センターには、地域住民の代表者で構成される「地域づくり協議会」が設置され、地域住民主体の地域づくりが期待されています。

 しかしながら、家庭の在り方の多様化、体験不足の子供たちの増加、祭典・地域行事を担う若者の減少、消防団・自治会等の担い手・後継者不足など、地域社会が抱える課題は山積しています。

 子どもは、友達や地域の人々とのつながりの中で育ちます。情報社会が一層進展し、幼児期からスマホに親しむようになっても、地域における人々とのつながりの中で得た直接体験こそが、子供たちの成長・発達の基盤となります。提言書の中では、「地域」は地理的なエリアというよりも、「人と人とのつながり」であるとの認識に立ち、住民相互のコミュニケーションを深め、地域住民が学校に関わっていくことの大切さに触れています。そして、学校と地域の人々の連携・協働の中で育てられた子どもたちが、やがて地域を担う大人になっていくという好循環が機能することを期待しています。

 近代社会の成立以降、個の自立、職業選択の自由、居住の自由などの自由が尊重され、首都圏を始めとする大都市において、多くの若者が交流し自由を謳歌し新しい文化を生み出してきました。まさに「都市の空気は人間を自由にする」です。これは、ある意味で、豊かな社会や自由な人間の生き方を追求してきた近代文明の大きな流れであり、これに抗することは容易ではありません。私たち自身の生き方や社会の在り方の選択が問われているといえます。

 今、人々のつながりを大切にしつつ、大都市と同様の自由や真の豊かさを享受することができる地方都市づくりに向けた息の長い取組が始まろうとしています。