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仕事と家庭を両立させよう ―家事・介護・育児を組み込んだ経済モデルについて―


准教授 牧野 好洋 (計量経済学、経済統計)

 社会人の皆さんは「仕事」と「家庭」の両立に頭を悩ませます。会社で長時間、仕事をすれば、家庭のことをなかなかできないし、家庭の中の仕事に追われれば、会社に遅刻してしまうかもしれません。なおここでは家庭における炊事・洗濯などの家事、また介護や育児を簡単化のため「家庭の中の仕事」と言います。

 私はお金を生まないこの「家庭の中の仕事」を金額で評価し、それを経済モデルに組み込むことを研究テーマのひとつにしています。これまでの日本経済の成長過程を考察するためには、また今後の人口構造の変化が日本経済に及ぼす影響を分析するためには、この観点をデータやモデルに組み込むことが重要と考えるからです。以下、簡単に説明します。

 例えば、家庭の中の仕事として「食事を用意する」を考えましょう。世帯はそれを「自分でそのサービスを作り出すか」(炊事をするか)、それとも「市場のサービスを買ってくるか」(炊事をしないで、お弁当を買ってくるか)で賄います。材料費や水道光熱費を除くと、前者は一見、無料のように見えますが、その人は炊事の時間、外で働ければ得られたであろう所得を犠牲にしています。

 この「炊事か」か「お弁当か」という選択は固定的ではありません。お弁当の価格が高くなれば、食事の用意は「炊事」によりシフトしますし、働けば得られる所得が高くなれば、炊事しないでその分会社で働くことにし、食事は「お弁当」によりシフトします。つまり「炊事かお弁当か」という選択は「お弁当の価格」や「賃金」という経済変数と深い関係を持ち、選択結果は「労働供給」、さらには「余暇」という経済変数に影響を与えます。

 このように「炊事かお弁当か」という選択は経済分析と密接な関係を持つのですが、一般的には「炊事」を経済活動とみなさないため、今まではこの選択を経済モデルの中にあまり入れていませんでした。

 ところが、経済学の教科書の記述「電子レンジや冷蔵庫などの家電製品の普及により家事が効率化され、時間を得た主婦は外で働けるようになった」を実際に分析するためには、データやモデルに「炊事」を取り込むことが必要です。

 今後、日本では高齢化に伴い「介護」が増えます。先ほどの「炊事」と同様に、日本はその介護を「家庭内の介護」と「企業による介護サービス」を組み合わせて賄う計画です。それらの組み合わせは、介護をする者が働けば得られる賃金と介護サービスの価格に影響を受け、その選択結果は家計の労働供給や、介護サービス業の労働需要に影響を与えます。介護保険の制度変更が日本経済に及ぼすインパクトを分析するためには、データやモデルに「介護」を組み込んでおくことが必要ですね。

 現在、少子高齢化に伴い、日本では働ける人口が減少しています。そのため家庭と幼稚園、保育園、託児所などが「育児」をうまく分担し、働くことを希望する人々には親としても、労働力としても活躍してもらう必要があります。育児と労働の両立にどのような施策が有効かを分析するためには、やはり経済モデルに「育児」を記述する必要があります。

 ときどき新聞やニュースで「主婦の労働はGDPの何倍」という記事が出ています。これは単に主婦の労働を貨幣評価してGDPと比べているのではありません。いつもはGDP統計の外にある「(主婦による)家事・介護・育児」をデータやモデルに取り込み、少子高齢化が進みつつある日本で、それらを家庭と社会でどのように分担するのがよいのか、またそれが日本経済にどのような影響をもたらすのか分析しようとしているのです。