ひとりビートルズ



プロローグ

 「もの 狂いの観点から見た自分史」の所でも書きましたが,私は5人目のBeatleに なりたかったのでした.

しかしながら,そんなことが叶うはずもな く,高1の時にBeatles中心のロックバンドを結成し,

勉強もせず遊んでいました.


 けれども,それも高校卒業まででした.卒業すると,ドラムは東京,ベース&ボーカルは京都,


リードギターは広島,ギター&ボーカルの私は横浜,と散り散りになりました.


それでも,大学生の間は休みに帰省したときに集まることができました.


また,ドラムとは東京と横浜で行き来していました.


 4年過ぎて,大学院で広島に帰ってきた頃 には,むしろ作曲の方に熱中していました.


つまらない授業の時には,よく曲を作ったものです.そんな時に作るのですから,


けだるい曲しかできませんでしたが...


また,夜中の2時3時にすばらしい曲が浮かび,それを書き留めておき,


翌朝見たら「何じゃこれは!」ということも良くありました.


 修士課程1年の冬に井上陽水の「氷の世 界」というLPを聴きました.とにかくショックを受け,


それから曲ができなくなってしまいました.そんな頃,広島で就職したリードギターが


職場でバンドのまねごとを始めました.メンバーが足りなかったので,私も呼ばれました.


そこで,はじめてクリームの曲をやりました.それも終わり,博士課程に入った頃には,


バンド活動の休止状態になりました.最初のひとりBeatlesを始めたの は,そんな頃でした.

 
最初のひとりBeatles

 今にして思えば,よくあんな機材でと思い ますが,その頃はそれで十分満足でした.


楽器は,質流れ店で数千円で買ったソリッドのエレキギターとフォークギターだけでした.


アンプはステレオを利用し,マイクミキシング端子に接続しました.音が割れるとエフェクトが


かかっているような感じになります.ベースはないので,トーンコントロールを目一杯低音にし,


エレキの低音源を指の腹で弾きました.ドラムには苦労しました.巻き寿司を巻くスダレの


ようなものの古くなったのをばらし,それを束ねて適当なところを叩くと,ハイハットのような


音がします.後は,段ボールの箱やさまざまな箱を見つけてきて,叩きました.


一人で多重録音をしようと思った背景には,Beatlesメ ンバーの中で私のもっとも敬愛する


Paul
が,初のソロアルバム「McCartney」を, 一人で録音したと聞いていたことが大きいと思います.


Band on the Run」でも,一人でかなりのパートをこなしてい るはずです.


 録音は,LL録音テープレコーダと普通のテープレコーダの2台.LL録音テープレコーダとは,


マスターテープを聴きながら,そのマスターテープに重ねてもう1トラック録音できるレコーダです.


何でも,先生の発音を聴きながら,自分の発音をオーバーダビングするための装置だそうです.


いまだに,それにどんな意味があるのかわかりません.現在は生産されていないようです.


 とにかく,まずLLレコーダにスダレとダンボールでドラムパートを叩きながら


ボーカル(大抵はコーラス)のパートを録音します.次に,それを聴きながらベースと


ボーカル(コーラス)を入れます.LLレコーダはこれで満杯になります.


そこで,これをもう一つのレコーダを使って,別のテープにダビングします.


そのダビングしたテープを聴きながら,今度はサイドギターとメインボーカルを入れます.


そしてまたそれをダビングという風に繰り返します.何度もダビングを繰り返すと,


ノイズが入るため,最後には「ゴー」というものすごい騒音の向こうで,演奏が聞こえると


言った感じになります.できるだけダビング回数を減らすため,同時にできることは


全部やります.ダンボールをたたきながらサブボーカルを歌っている姿を誰かが見たら,


やはり気がふれたかと思ったことでしょう.


 楽器が楽器だし,その頃はボーカルの方に 自信があったので,コーラス中心の曲を選びました.


3部コーラスの「This Boy」,2部コーラスの「If I Fell」なんかです.コーラス中心ではないけど,


Paul
の「Letting Go」という曲もやりまし た.

 Intermission

 その後,助手時代に再びバンドを結成し, 新歓コンパや追いコンでステージにたちました.


それが最後で,広島を離れてからは,ほとんどギターを持つこともなくなってしまいました.


コンピュータに狂い始めたのです.「もの狂いの観点から見た自分史」をリメイクして,


このホームページに載せた頃まで,それは続きました.そこにも書いたように,


Rickenbacker 325
のコピーモデルを買っても,ひとりBeatlesを 始めようとは思いませんでした.


 むしろクラシックギターの独奏をしようと 思っていました.Beatlesは変わらず好きだけれど,


それはバンドでしかできない.昔のような1人多重録音では,思うような音づくりができない.


といって,本格的な多重録音装置は存在しないか,存在していてもとても手がでないほど


高価であろうと,勝手に決め込んでいました.それよりは,1人で楽しめるギター独奏をしよう.


昔手を出したが,中途半端なままだった「アルハンブラの想い出」を完成させよう.


さらに,「アラビア風奇想曲」にもチャレンジしよう.モーツァルトのギター曲も弾いてみたい.


バーデンパウエルのようなボサノバの独奏曲も弾けたらいいな.なんて思うようになっていました.


それまでギターをほとんどさわらなくなっていたのですが,ギターにさわりたいと思うようには


なっていたようです.

 

2度目のひとりBeatles


 VTRに 出会う

 そんな時に,その考えをひっくり返すもの に出会ったのです.「ギター・プレイ・オブ ザ・ビートルズ」


(リットーミュージック)というビデオソフトです.行きつけの楽器店で見かけ,何気なくというより


Beatles
ものなので買いました.深く考えもせず買ったのでしたが,それを見てぶっ飛びました.


Beatles
の代表曲がピックアップしてあり,どのような楽器を使って,どのように演奏しているかが


事細かに解説してあるのです.これを見て,私はBeatlesについてほとん ど何も知らなかったことを


思い知らされました.

 高校時代のバンド活動では,私が自由にア レンジしていました.2人にギターを教え,


初心者に弾きやすいコードで構成できるように転調したりもしていました.実際に,Johnが,


George
が,Paulがどのように弾いていたかなんて 考えもせず,自分たち流の演奏をしていたのです.


彼らがどのように弾いていたかを知るには,あまりにも情報がなさ過ぎたし,レコードを何度も聴くことで


コピーをするほどの能力もスキルもありませんでした.ましてや,レコードをモノラルのポータブルプレーヤー


あるいはモノラルのラジオで聴いていたのです.せめてステレオがあったら,左右どちらかの


チャンネルを消すことで,各パートの演奏についてもっと知ることができるのに,と痛切に思っていました.


 さて,このビデオソフトのおかげで,色々 なことを知りました.ビデオで取りあげた曲は,


Beatles
の代表的な曲ばかりですが,それらを誰がどんなギターで弾いていたのかがわかりました.


ギターはリードギターのGeorgeとサイドギターのJohnという固定観念がありましたが,


それがガラガラと崩れました.Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandの印象的なリードギターを,


Paul
が弾いていたこと,さらにはMichelleの印 象的なカッティング中心のギターを,


Paul
がアコースティックギターで弾いていたこともわかりました.Sgt. Pepper'sのリードギターは


当然Georgeのはずだし,Michelleの ギターは当然Johnがソリッドギターで弾いているものと


ばかり思っていました.これは,映画「Let it be」の屋上ライブで,JohnGet Backの リードギターを


弾いているのを見たときと同じ,あるいはそれ以上の驚きでした.別資料によって,


Ticket to Ride」や「Another Girl」の印象的なリードギター,さらには「Taxman」 のインド風とも思える


ギターソロも,みんなPaulが弾いていたことも判明しました.


 Paulの ギターフレーズを見て,いまさらながら,Paulは天才だと思います.Paulのギターフレーズの特徴は,


少ない音数で,実に効果的な音づくりをするということです.「Sgt. Pepper's」 でも,「Michelle」でも,


Yesterday」でも,「Blackbird」 でも,同時に鳴っている音はたった2−3音程度ですが,


これが実に効果的で心地よいのです.私にまったくない種類の発想です.これに対して,


John
の「I Feel Fine」,「Norwegian Wood」,「Revolution」 など,Johnも非凡な才能を発揮している


と思います.それでも,Johnのフレーズは私の想像の範囲内にあります.と いうことで,


ますますPaulにはまってしまいました.


 そんなこんなで「Michelle」や「Yesterday」 を,Paulと同じ弾き方で,自分も弾いてみたいと思うようになりました.


昔から「Michelle」や「Yesterday」 のギターにはあこがれていたのですが,どうしたらそんな風に弾けるかが


わからなかったのです.もっとも,「Michelle」の中の印象的なイント ロのクリシェの部分だけは弾けていたのですが,


その後の部分がわからなかったのです.

 

楽譜を入手する

 「The Beatles All 214 Songs Band Score」(ソニー・マガジンズ)という本を入手しま した.この本には,


Beatles
全曲のバンドスコアがのっています.これを使えば,Beatlesと 同じ弾き方で,同じ世界を再現し


できるのではないかと思いました.ただし,VTRとこの本で食い違っている部 分も,時々あります.


そんな時は,最後は,自分の耳で決めるしかありません.

 

ギターを入手する

 「Michelle」 や「Yesterday」を弾いたギターがEpiphone Texan というギターであるということがわかりました.


Epiphone
は日本のギターメーカーであり,Beatlesの 日本公演でJohnGeorgeの 両方が使用したギターも


Epiphone
製であったという知識を持っていました(正しくはEpiphone Japanという会社があるけれども,


本社はアメリカです).日本製なら安く手に入るに違いないと思い,Epiphone Texanを入手したいと強く


思うようになりました.


 結局,インターネットで探し回ったあげ く,山野楽器で購入しました.Epiphone Texanとはいうものの,


もちろん,1960年代のものとは異なっています.Paulが使用したのと同じ仕様のビンテージモデルは高価で,


とても手に入りません.それでも,とても満足でした.そして,Epiphone Texanを 買ったことが契機となり,


Beatles
と同じ楽器を使い,同じ弾き方で,Beatlesの コピーをしたいと思うようになってしまいました.


 次にRickenbacker 4001 というベースギターを買いました.中期以降は これで演奏されています.


Sgt. Pepper's
Penny Laneのベー スを聞いて,なんていい音なんだろうと思ってました.


そんな時,宇宙中継でBeatlesAll You Need Is Laveを演奏したとき,いつものバイオリンベースとは


違うベースを,Paulが弾いていて,その当時がっかりしたのを憶えていま す.その頃は,Paul


バイオリンベースという固定観念があったのです.音が良くなったのも,Paulの 弾き方が上達したのだと


思っていました.その違和感を憶えたベースと,格段に音の良くなったベースとが同じものであり,


Rickenbacker 4001
ということが判ったのです.そうとわかったので,格好(バイオリンベース)で はなく,


音をとることにしました.


 さらに,Epiphone Casino VCを入手しました.これも,Paulがリードをとったときに使用されたギターです.


もちろん,ビンテージものではありませんが...Ticket to Ride, Another Girl, Sgt. Pepper's などは,


これで弾いたと聞いています.Taxmanのインド風の間奏もこれで弾いたの でしょう.手にしてみると,


ややshort scaleで,手の小さな私にはぴったりです.Johnも中期以降は,Epiphone Casinoを使っています.


途中で塗装をはがしてしまったので,見た目は少し違いますが,Get BackRevolution


John
Epiphone Casinoで弾いていま す.日本公演の時には,JohnGeorgeが そろって,


このギターを使用していました.もっとも,テレビでリアルタイムで見たとき,JohnRickenbacker 325


George
Gretchと思いこんでいたため,見たこ とのないギターを持った二人を見てがっかりしたことを


記憶しています.衛星中継でPaulRickenbacker 4001に違和感を感じたのと同じです.日本公演の衣装も,


ノーネクタイの見たことのない服でした.これも,新しい自分たちを模索してPaulが デザインしたものだということを,


ずっと後になってから知りました.早い話が,Beatlesの内幕を何も知ら なかったのです.


当時は,インターネットもなく,レコードから入ってくる音楽以外の情報は,ほとんど入手できませんでした.


また,ミュージックライフなどの音楽誌から,音楽以外の情報を積極的に入手しようという気もありませんでした.


レコードで聴く音楽がすべてであり,それ以外の情報はほとんど不要でした.


Beatles
のように髪を伸ばしたいなんて思ったこともありません.

 
 Epiphone Casinoを入手し,これで音源はすべてそろったよう に思えました.が,さらに,


Gibson J160E
というギターを入手しました.これは,アコースティックギターにエレキのマイクが付いて いる


という他に例を見ないギターです.みかけは最近よく見かけるエレアコに近いのですが,音が違います.


エレアコはアコースティック用のマイクが内蔵されています.それに,Gibson J160Eは,アコースティックギター


とは異なる共鳴を起こすような構造にもなっているそうです.


 このギター,なんといってもJohnが初期から後期まで一貫して使用したギターです.


アコースティックな匂いのする音が聞こえたら,このギターと思って間違いないでしょう.


And I Love Her
のシャラシャラした音,Norwegian Wood の基調となるアコースティックな音,


Julia
のフィンガーピッキング,さらにはI Feel Fine の 摩訶不思議な音,みんなこのギターです.


John
はたった3台のギターを使ったといえます.初期のRickenbacker 325


中・後期のEpiphone Casino,そして,通してGibson J160EJohnほ どではありませんが,


George
も使いました.Love Me DoI'm Happy Just Dance with YouFor Your Blueなど,


映像で確認できるものも少なくありません.いずれにせよ,思い入れ抜きでも,


貴重な音源であることは確かです.withというBeatleマニアックな楽器店で入手しました.


こんな店を知ることができるのも,インターネットのおかげといえましょう.


一度,店をのぞきに行きましたが,そのマニアックさに感動しました.


店主さんは,みずからBeatlesのコピーバンドをつくって,コンサートも しているとのことです.

 

2度目のひとりBeatlesをはじめる

 Korg16チャンネルのマルチレコーダを入手し,2度目のひとりBeatlesを始めました.

 最初に取りあげたのはMichelleです.ギターは手に入れたものの,ドラムに問題を残していました.


ドラムにあまり依存しない曲で,Epiphone Texanを利用できる曲 ということで選びました.


グラミー賞の作曲書を受賞したPaulの代表作のひとつであり,とくにサイド ギターとベースが好きでした.


当初,サイドギターは,Johnがソリッドギターで弾いていると思っていまし た.実際は,


Paul
がアコースティックギター(Epiphone Texan) で弾いていたのでした.


 最初にサイドギターを,Epiphone Texanで入れました.印象的なクリシェの部分は,


レコード通り2重録音.続いてベースです.もちろんRickenbacker 4001を 使いました.


そして,Epiphone Casinoでリードギター.楽器パートの最後は ドラムです.ドラムがないので,


スティックだけを買ってきて,木製の盆を叩きました.しばらくたってからドラムは,


ドラムマシンを使って入れ直しました.


 リードボーカルの番になって,キーが高す ぎることに気づきました.高校時代は,


Paul
と音域がほとんど同じであり,Michelleの 音域は楽々のはずだったのです.年のせいで,


あるいは歌い込んでいないので,音域が下がってしまったようです.といって,


防音装置もない自宅で,やたらと発声練習もできません.やむなく,チューニングを1音下げ,


本来のFでなく,E♭で楽器パートを録音し直しました.


リードボーカルに続いて,2パートのコーラ スでおしまい.コーラスが入ると,


かなり曲の雰囲気がでてきました.最初にしては,かなりいいできと思っています.


これに味を占め,Norwegian WoodAnd I Love Herという,ドラムに重きを置かない曲を録音しました.


ドラムは,現在コンピュータを使っています.ということで,一人Beatlesと いうよりは,


一人+1台Beatlesになっています.ドラムについては,シンセドラムで もいいから,


やはり自分で叩きたいと思っています.老後の楽しみです.


 ドラムが強化されてから,All My Loving を録音しました.この曲は,Paulの初期の最高傑作と


思っています.JohnRickenbacker 325 を使ったカッティングが印象的な曲です.


当然,コピーモデルでトライしました.ところが,途中でチューニングがゆるんでしまうのです.


なんど試みてもゆるんでしまいます.やむなくギターを換えました.そのときは,


やはりコピーものではだめだと思っていました.けれども,実際にJohnが 使ったのと


同じ太めの弦を使えばゆるまないということが,後でわかりました.


当然録音し直しになりますが,現在のものが 結構いいできなので,なかなか踏み切れないでいます.

 現在,あまり一人Beatlesをする時間がありません.途中で,止まっている曲も結構あります.


そのうち,Oh! Darling, Get Back, Sgt. Pepper's, Taxman, Here Comes the Sun など,


やりたい曲は山ほどあります.あせらず,少しずつやっていくつもりです.


まさに,老後の楽しみです.(つづく)



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