グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



ホーム >  応用心理学研究センター >  通信14「思い出すのは楽しい時に」

通信14「思い出すのは楽しい時に」


静岡産業大学 非常勤講師 林美恵子

文脈効果というものがある。例えば「作られてしっまた。」とあったとしても、文章を淀みなく読むことができる。間違っている部分があっても文脈を読み取り、流れで読んでしまうのである。人は一つ一つ細かい文字を認識しているのではなく、まとまった単語、もしくは文章として、経験により読みやすいように推測して読んでいる。「流れを読んで」いるわけである。
この文脈効果は、記憶にも働く。流れを読み、都合の良いように、ある時は都合の悪いことが、次々と思い出される。記憶というのは「連鎖」しているので、流れを読みやすい。そしてその流れは、主に感情によって作られてしまう。つまり、楽しい時に昔のことを思い出すと楽しい思い出が、どんよりした時に思い出すと辛い思い出が、甦りやすい。

先日、東日本で甚大な被害をもたらした大地震が起こった。私自身、関西に住んでいるので直接的な被害はないが、16年前の阪神淡路大震災の経験者であり、いやがおうでも当時のことが甦り、大変辛い気持ちになる。テレビやインターネットで、被災地の惨状や原発の不安など、ネガティブなことばかり見ていると、当時の不安感や辛かったことばかり思い出され、余計に辛くなる。これも記憶の連鎖であり、感情による文脈効果である。

辛い現実に目を向けることも大事だが、必要以上にネガティブになっていては、できることもできなくなる。音楽やスポーツなどで少しでも気を晴らし、その状態で当時のことを思い出す。辛いことばかりでなかったことを、希望もあったことを、思い出すことができる。心が潰されてしまわないために、役に立つテクニックでもあると思う。