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通信1「現代社会で今求められているもの」


静岡産業大学 講師 藤田依久子

2008年、アメリカの歴史上初の黒人大統領が誕生した。バラク・オバマ氏である。彼が選挙期間中に使ったキャッチフレーズ、“CHANGE”や“Yes, we can.”は、アメリカ国民の心を掴んだ。
しかし、通常、私達は人から何か言われて、自分達が世界を変えることができる、と信じることは難しい。それまで選挙に行かなかった人が選挙に行くとか、それまで共和党に投票していた人が民主党に投票する等の投票行動を変えるといった、人がそれまでやっていた行動パターンを変えることは、さらに難しい。
彼はどのようにしてアメリカ国民を導いたのだろう。そこには、心理学を応用した「説得の技術」が使われていたと言われている。彼は、様々な説得の技術を使っているのだが、特に「共感のメカニズム」に基づいた「感情の移入法」の説得への応用には、素晴らしいものがあり、彼が行ったスピーチは、実に見事であった。 

心理学では、人間の心は、およそ10%の意識とおよそ90%の無意識とからなっている、とされている。意識は、論理的な思考を担当し、無意識は、感情等の非論理的思考を担当しているのである。ダイエットをしている人が、「甘い物を食べると太る」と、意識ではわかっていても、思わず食べてしまう、といったように、意識(論理的思考)と無意識(感情)が対立した場合、無意識の方が強い力をもっていることを多くの人は感じているだろう。
オバマ氏は、人々を論理的に説得するだけではなく、無意識(感情)に訴える説得の方法をうまく使った。キング牧師の有名な演説、“I have a dream.”も同様に人々の感情に訴える名演説だった。人々は、理路整然とした論理的説得よりも、感情に訴えかける説得に弱いのだ。 

さて、ここで我々の毎日の経済活動に目を向けてみよう。今日、「ただ良い」というだけでは、商品は売れない時代である、と言われている。今、我々の周りにある物は、以前に比べて随分性能が良くなってきている。企業の生産能力が向上したため、商品の品質が上がったのである。どこの会社が作った商品でも、かつてほどの品質の違いがなくなりつつある。そうなると、会社には、いかにしてその商品をアピールするか、といった宣伝や広告といったプレゼンテーション能力が必要となってきた。ここでも商品の品質の良さをアピールする方法よりも、「私はこの商品を使ってこんなに良かった」とか「もしあなたがこの商品を買えば、とても楽しい生活が送れますよ」といった、相手の感情に訴えかけるメッセージが使われることが多くなった。 

このように現代社会は、政治や経済も心理学と深く関わっている。相手の感情がよくわかり、相手の心に届くように物事を伝えることのできる能力が今の社会では重要であり、それができる能力をもった人が、いろいろな場所で強く求められている。